トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

読書・書評

山崎ナオコーラ『文豪お墓まいり記』 文春文庫

ナオコーラさんが日本の近代文学の巨匠たちの墓参りをするという、ショートトリップエッセイ。都内や関東近郊のお墓が多いので、行ってみようかなという気にもなる。 文学案内だがガイドブックではなく、ナオコーラさんの身辺の話が適度にちりばめられている…

柳美里『JR上野駅公園口』 河出文庫

後書きがすごく参考になった。天皇制とホームレスの対比にまで私は考えが及ばなかった。 P55 光は照らすのではない。照らすものを見つけるだけだ。そして、自分が光に見つけられることはない。ずっと、暗闇のままだ。 ホームレスになっている人には東北から…

チェーホフ『ワーニャ伯父さん・三人姉妹』 光文社古典新訳文庫

「ワーニャ伯父さん」 大学教授の義理の兄(妹の夫)のために領地を管理してせっせと仕送りしてきたワーニャ伯父さん。教授の娘(つまりワーニャ伯父さんの姪)と共に教授に尽くす半生だった。 ワーニャ伯父さんの妹は亡くなり、教授は再婚した若いエレーナ…

山崎ナオコーラ『かわいい夫』 夏葉社

山崎ナオコーラと柳美里との出会いは私の「2021年の出会い」ベストテンに入る。 その山崎ナオコーラ著で装画が(あの懐かしい)みつはしちかこ というエッセイ集。 この作家は読者との距離の取り方が絶妙だ。ポーズが素敵、と言ってもいいかもしれない。文体…

泉鏡花『夜叉が池・天守物語』 岩波文庫

泉鏡花の戯曲。 「夜叉が池」 人里離れた山中で寄り添うように暮らす百合と晃。寺はとうの昔に焼失しているが今も残っている鐘楼があり、その鐘を朝夕晩の三度つくことをなりわいとしている。それは村を水害から守る竜神との約束のためだった。鐘をつかない…

マン『トニオ・クレーガー』浅井晶子訳 光文社古典新訳文庫

この小説を知ったのは、北杜夫さんの青春の書としてだった。そのとき「トニオ・クレーゲル」となっていたので、クレーガーとあるのがどうもしっくり来ない。翻訳だとどうしてもこういうことになる。『赤毛のアン』も、私のアンは昔の村岡花子さんの訳であっ…

和田秀樹『70歳が老化の分かれ道』詩想社新書

60歳以上はひとからげになってる本が多い中で「70歳」という年齢に着目して述べられているところが斬新な気がした。 今は老後が長いし、老年の間での格差も大きい。デビ夫人のような女性がいる反面私のように年相応、順調に老いの坂を下っている人も存在…

志賀直哉『万暦赤絵』 岩波文庫

自選による23篇の短編集。 久々の志賀直哉だ。卒論に書こうと思って全集を買ったくらい、一時は好きだった。 ほとんど読んでいるはずなのだが、ほとんど思い出せない。どこに惹かれたのかも今となっては定かではない。半世紀近く経っている。もう初めて読…

中谷彰宏『なぜかHAPPYな女性の習慣』 だいわ文庫

3つの気づき。 ①1秒たてば、過去。 「スイッチを切るだけでいい」とある。 今しかないのだ。 この年になると時間がとても貴重に思える。なぜ今まで気づかなかったのかと不思議なくらいだ。嫌な奴と過ごす時間、そいつを思い出してる時間、そういうのもほん…

遠藤周作『深い河』講談社

インドツアーの一行4人にまつわる物語。その中の一人美津子とその学生時代の友人大津が芯となって語られる。 癌で妻を失った磯部は、献身的だった妻を顧みなかったという後悔から、妻の最後の望み「転生して再び磯部に巡り合いたい。必ず探してほしい」を叶…

オスカー・ワイルド『サロメ』 岩波文庫

分封ユダヤの王エロドは、兄の死後その妻だったエロディアスと結婚している。 予言者ヨナカーンはエロドを非難するが、王は予言者を恐れているので殺そうとはしない。 囚われのヨナカーンを恋して言い寄るエロディアスの連れ子サロメがこの戯曲の主人公だ。 …

西原理恵子『洗えば使える 泥名言』文芸春秋 (再読)

「やり逃げ人生」「ばっくれ人生」を座右の銘とする西原理恵子先生の味わい深い、偉人・成功者ではない人たちの名言集。 私はこの西原理恵子さんが大好き。友達になれるかはわからないけれど、書いたものを読んでも、テレビCMなどで見ても、可愛くてたまらな…

『炉辺のこほろぎ』 ディケンズ作 本多顕彰訳

ジョン・ピアリビングルとメアリの夫婦の愛の物語。とても後味の良い話だ。 メアリのキャラクターがとても魅力的。明るく無邪気で疑うことを知らないかのようだ。彼女の賢さは他人を追い落としたり権力をふるうためのものではなくて、平凡な生活に命と愛を吹…

『夢で会いましょう』 村上春樹/糸井重里 講談社文庫

m; その象はとても素敵なハイヒールをはいて地下鉄に乗っていた。 I; 仮面というコトバは、世間からなくしたい。 急になくすと、へこみができるから、「おめん」とゆーものを代入してみようと 思う。 村上春樹と糸井重里がカタカナの言葉にエッセイや短文…

『クララとお日さま』 カズオ・イシグロ 早川書房 (ネタバレありです)

その辺の子どもよりうちの犬の方がテーブルマナーがいい。犬同伴のレストランでは、ほとんどの犬が静かに座っている中で騒いでいるのは人間の子どもたちであることが多い。性格だってある種の大人よりうちのマルのほうが穏やかで愛情深く、口数も少なく、可…

筑摩現代文学大系39「佐多稲子 林芙美子 集」

佐多稲子の作品は初めて読んだ。 『素足の娘』『灰色の午後』の2作品が収められている。 読後感は、体温が伝わってくる、だ。もっと言えば、隠蔽されたヰタ・セクスアリスのような感じだ。 年代的に性の話は率直にしないものだというのが染みついている。以…

『八月の光』 フォークナー 岩波文庫

リーナは寝室の窓から抜け出して男と会っていた。彼女の妊娠を知った男ルーカス・バーチは逃げ出す。しかし彼女は迎えに来るという男の言葉を信じていた。その迎えの知らせがないのは何か理由があるのだと解釈したリーナは行方も分からない男の後を追って、…

『ヘンリー・ジェイムズ短編集』

『ヘンリー・ジェイムズ短編集』 大津栄一郎編訳 岩波文庫 「私的生活」 「私」は才能のない二流の人間。スイスのリゾートホテルで有名人たちと同宿となり、社交生活を楽しんでいる。メリフォント卿夫妻、文壇の大立者クレア・ヴォードレー、美人女優のブラ…

しびれるペンネームとセリフ回し 海音寺潮五郎

『堀部安兵衛』 海音寺潮五郎 鱒書房 剣豪新書 実家の姓の印が押されている古ーい本。父の蔵書だったものだ。 ワタクシの父は時代小説が好きだった。鱒書房、剣豪新書、なつかしい気がする。山手樹一郎が特に好きだった。「遠山の金さん」とか。講談本もたく…

読書の秋はやっぱり宮部みゆき

今週のお題「読書の秋」 まだまだあるとは言っても読みつくしてしまうと楽しみがなくなるので、わざと間隔を置いて読んでいる宮部みゆきの本。禁断症状が出て来たのでついに手に取る。 『この世の春』上・中・下(新潮文庫) 時代物のミステリー仕立てという…

エリカ「最高の友は、私のなかから最高の私を引き出してくれる人である」

朝のテンションを上げるルーティンのひとつが、テンションの上がる本を読むこと。朝一番に良い言葉を入れる。今読んでいるのが、エリカ著『ニューヨークで学んだ「私を動かす」47の言葉」(宝島社)。 エリカは単身ニューヨークで起業し、成功した女性。E…

小林弘幸『自律神経が整えば休まなくても絶好調』 ベスト新書

この本はいい。とても実用的だと思う。 ①「休息は『動かないこと』ではない」と著者は言う。「坐り込まずに動いたほうが急速になる」。「休む」ということの内容を考え直したほうがいいという提案だ。 交感神経も副交感神経も共に高く維持されているのがいい…

さくらももこ『ひとりずもう』を読み、ももこさんの青春ににっこり

ひとりずもう (集英社文庫) 作者:さくら ももこ 集英社 Amazon 子ども時代からのことが書かれているが、漫画家になるまでの「青春記」と言っていいだろう。 これを読むと、さくらももこさんが単なるおもしろおかしい人ではなく、芯が強く自分をしっかり持っ…

池田晶子『残酷人生論』を読む

残酷人生論 作者:池田 晶子 毎日新聞社 Amazon この表題の「残酷」の意味はよくわからない。あまりこだわらなくていいのかなと思うことにしよう。 この本を読んで考えたことはこの3つだ。 ①社会と存在 「人間は社会的存在である」「人はひとりでは生きてい…

日本近代短編小説選 明治篇1 岩波文庫

12の短編が入っていて、なかなかの難物だった。名前だけは知っているがどんな作品があるのか知らない作家(幸田露伴など)の作品が読めてよかった。 明治という時代の熱が伝わってくる気もするし、隔世の感を抱きもする。でも、改めて読み直してみるのは良…

『大いなる遺産』鍛冶屋のジョーは悲しいほど良い人だ。

大いなる遺産(上) (岩波文庫) 作者:ディケンズ 岩波書店 Amazon 下巻を読むかどうかわからない、と始めに言っておく。 鍛冶屋のジョー・ガージャリーの妻であり自分の姉である「ねえちゃん」に「哺乳瓶で手厚く」育てられたピップの数奇(と言っていいだろう…

レイチェル・カーソンの名著『センス・オブ・ワンダー』ー生きていくためにシニアにこそ必要なもの

センス・オブ・ワンダー(新潮文庫) 作者:レイチェル・カーソン 新潮社 Amazon 美しい挿絵の入った小さな本。これは繰り返し読む本になると直感した。 p15 わたしたちは、嵐の日も、おだやかな日も、夜も昼も、探検に出かけていきます。それは、何かを教え…

宮部みゆき『レベル7』

レベル7(セブン) (新潮文庫) 作者:みゆき, 宮部 新潮社 Amazon 失踪した女子高生。目覚めると記憶を失っており、しかも見知らぬ同士が同じベッドに横たわっていた若い男女。過労死で夫を亡くした女性が淡いかかわりを持っていた女子高生を探して動き出す…

ついにおちかが嫁入り『あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続』

あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続 (角川文庫) 作者:宮部 みゆき KADOKAWA Amazon 第二話「だんまり姫」がいちばん良かった。 「一国様」と呼ばれる幼いあやかしが可愛くて愛おしい。肉親の手にかかって死んだのに道理を聞き分けて沈黙を守った健気さと哀…

宮部みゆき『ドリームバスター』のフルスロットルな世界観

ドリームバスター 作者:宮部 みゆき 徳間書店 Amazon 現代の日本のとある場所に生きているあなた。あなたの心がストレスや恐怖で悲鳴をあげるとき、それを聞きつけて別の星からやってきた凶悪犯罪者があなたの夢に入り込む。実体を持たない彼らは、生き延び…