トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

『時間革命』 堀江貴文 朝日新聞出版

「一秒も無駄に生きるな」というのが著者の主張。

殆どのページが心に響いた。

無駄に生きないということは、自分の時間を生きること。自分の心が躍る予定だけで時間をしっかりと埋め尽くし、無我夢中で動き回る。

今までの発想だと、辛い仕事の後に「楽しい時間」を用意して、それを楽しみに頑張るという感じだったと思う。そうではなく、「辛い仕事」を止め、後の「ご褒美」ではなくその仕事そのものが楽しいことで人生を構成するということだ。

この時間の使い方は、自分でそう生きると決めるかどうかだと思う。「それはできない」というのは、自分がそうしたくないからに過ぎない。

他人の都合に合わせ、認められるために他人の時間を生きていては、いくら忙しくしていても、充実した時間を過ごすことはできない。

この本を読んでこんなことを考えた。

人間関係も「自分」を起点にする。

くだらない人間関係に振り回されないということ。

過ぎたことや他人のことを考えて負の感情を燃焼させる……これほど無益なことはない。

具体的なアドバイス「仕事はなるべく細かく分解し、いつでも短い隙間時間でサクサクとこなせるようにしておく」とか、「短期目標こそが人生を楽しむための秘訣だ」などもとても参考になる。

いちばん心を動かされたのは、「みんなの目的が『勝つこと』ではなく『たのしむことになっていれば、『負けた人たち』も決して不満は持たないはず」という下りだ。

「夢は叶う」と言う人もいるけれど、全員が一番になれるわけではない。一番とまでいかなくてもある程度の「勝ち組」に入らなければ幸せではないとなると、その幸せのためには、もう始めから半数以上の人間の不幸が前提になってきてしまう。

「幸せ」って、そんな風なものではないと、いつも思っていた。みんなが幸せになれる考え方がきっとある筈。他人の不幸の上に成り立っている「幸せ」なんて言葉の矛盾でしかない。

この本はその答えになっていると思う。

そして、もし一流にならなければ幸せでないとなると、これからどんどん年をとって衰えていくわけだから、何をやっても無駄ということになってしまう。

そうではないのだと。

「たのしい」を目指すことならば、何歳になって可能だ。この本にも、「何歳になっても楽しいことは楽しい」とある。

この考え方は、「幸福は点ではなく線」だという言葉でも表現されている。

幸福が点ならば、何かを達成したその瞬間だけが幸せで、その後はまたえんえん苦しい努力が続くことになってしまう。そうではなく、「ぼくたちはいつでも幸せで『ある』ことができる」のだ。それは「今を生きる」ことにフォーカスすることによって可能となる。

「川下り=人生」を楽しむ、という考え方も面白かった。

ほんとうに人生はままならない。自分の思い通りになることなんか、一つもないと言っていい。世界を変えようとしても、変わるものではない。というか、世界は勝手にどんどん変化していって、我が手に掴むことなんかできはしないのだ。

流れに身を任せ、自分のほうにぷかぷかと漂ってくる果物があったらおいしく頂く、というのが堀江さんの生き方だと言う。コツは「自分から果物を探し求めない」ことと、「えり好みしない」ことだと言う。

「自信」についての言葉も心に残った。

本当の自信とは、「自分の心に寄せる強固な信用」である。

「根拠のある自信は危うい」と書かれている。「自信を持つために必要なのは、『将来』のために自分の能力を高めたり、他人を圧倒するような『過去』の実績を積み重ねたりすることではない。『現在』を生きることだ。」と。

堀江貴文、やっぱただもんじゃないな、と。そしてけっこう愛のあるいい人じゃない、と思った。書かれていることはみな、ほんとうに親切なアドバイスだ。

この本は若い人のために書かれているのかもしれないが、「時間革命」は、余暇と幾分のお金を手に入れてもう働く必要のない老年の私たちにこそ大きな意味を持つ本ではないかと思う。残り少ないからこそ、時間の大切さが身に沁みているから伝わってくるものがある。

私は、十年前から、「もう時間をお金に換える仕事はやめよう」と決めて、わずかな収入を捨て、自分の自由になる時間を手に入れた。今、働いている女性が多く、私のようなのんびりさんに対して優越感を感じている人もいる。でも私はこれだと思っている。自分の考えに理論的裏付けを得たような気のする本でもある。