可愛げのない、哀れな15歳の少年ポール。彼は憎み合って離婚した両親の間で、相手を苦しめるための道具としてやり取りされていた。
その父の元からポールを取り戻すことを依頼されたスペンサーは、彼の悲惨な状況を知り、スーザンに反対されながらも、彼を自立へと導く手助けをする。
スペンサーシリーズの中でも白眉の一冊。
彼は、少年の父親代わりになろうとするのではなく、彼が一人前の大人として自立することを目指す。森の中で協力して家を建てながら、心身ともにポールを鍛えていくスペンサー。今まで誰からも「育てる」ことをされていなかったポールは、めきめきと成長する。
「自立と言うのは自己に頼ることであって、頼る相手を両親からおれに替えることではないんだ」
自分と共に暮らすことを望むポールをスペンサーはこう諭した。
スペンサーは、ポールのために自分やスーザンが望まない生き方を選ぶことはしない。
「おれは、おれたちみんなにとっていちばんいい解決方法を見出そうと努めているんだ。おまえだけでなく、おれにとっても、スーザンにとっても」
あと、268ページでホークがやくざの元締めを撃つ場面にしびれた。
「おれは床に倒れている男は殺せない」というスペンサー。
ホークは、ハリイの額の真ん中を撃つ。
「おれは殺せる」
この二人はほんとに素敵。
さて、スペンサーシリーズに常について回るスーザン問題だが、ここではそれほど気にならない。というか、ポールを自立させることを通じてスーザンとスペンサーの関係もまた進化するのだ。
スーザンが表面的にだが2番になる状況が起こるが、彼女はそのことも含めてスペンサーを受け入れるのだ。
まあ、それもこれも深く愛されているという自信があってのことだ。
やはり苛立つ存在であることに変わりは無いのである。