トマト丸 北へ!

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『レイチェル・ウォレスを捜せ』      ロバート・B・パーカー 菊池光訳     ハヤカワ文庫

スペンサーは、ラディカルな思想を持つレスビアンでフェミニストの作家レイチェル・ウォレスのボディーガードを依頼されるが、性格があまりにも合わず、解雇される。しかしその六か月後レイチェルは誘拐され、スペンサーは、責任感から彼女の捜索に乗り出す。

信念を曲げない二人。その表現は異なるが自分を曲げないで戦うという点で、共通部分がある。これはホークやスーザンも同じで、たぶん、作者の価値観を体現しているのだと思う。

救出されたレイチェルは素直に礼を言う。彼女は監禁されている間中、心の奥でスペンサーが救出してくれると信じていたのだ。そこには互いの人間性に対する敬意と信頼がある。主義主張は違っても、その信頼は強固なものだ。

というか、互いに妥協することなく、主義主張を掲げることによってのみ、信頼は生まれる。相手におもねったり忖度して自分の意見を引っ込めるところには、友情も信頼も敬意も生まれないのだと思う。

このスタンスは、スペンサーがスーザンと愛を深めることを通じて得たものであり、この誘拐事件を通じてレイチェルが体得したものだ。

スペンサーシリーズはハードボイルドのエンタテインメントであるが、主人公や登場人物の成長の物語でもある。そこが他の多くの読み物と違う、読者を中毒にする要素だ。

『初秋』の一つ前の作品。