トマト丸 北へ!

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『神去なあなあ日常』 三浦しをん

私の期待を裏切らない鉄板作家のひとり、三浦しをんさんの小説。

奈良との県境近い三重県の山奥の村に強制的に送り込まれた主人公平野勇気の最初の一年が描かれている。

主人公の成長の物語であることはもちろんなのだが、山仕事の厳しさ、醍醐味が生き生きと感じられて一気に読んでしまう。

勇気の両親は、高校卒業後フリーターでもするかという鈍い勢いの勇気を容易には逃げることもできない山奥の林業の村へ送り込む。携帯の電池も捨てられ、横浜の我が家へ逃げ帰ることも不可能という状況で、勇気は否応なしに山仕事を叩きこまれていく。

勇気にとってはサバイバルのような生活だが、体力だけはある彼は生き抜き、仕事仲間や村人たちに存在を認められるまでになる。徹底的に受け身の人生だった彼が恋をして積極的になる下り、若いっていいなあと思う。

山持ちの清一さんの義妹の直紀さんに恋した勇気は、彼女に認められるために仕事を猛烈に頑張るようになるのだ。

「なあなあ」とは、神去のキーワードでもある。「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」、その他さまざまなニュアンスが込められる方言だ。時の流れと自然に逆らわず、すべてを受け入れて謙虚に生きて行こう、という感じだろうか。

しかし神去は理想郷ではない。そこに住んでいるのはやはり生身の人間だ。嫉みや余所者への差別など、ネガティブな部分もある。それも含めての「なあなあ」。

神去村の生活は世間から孤立した独特のもので、外部の人間には容易に理解することも入り込むこともできない伝統と因襲に彩られた世界だ。その世界が説教臭くなく、「なあなあ」の世界として描かれているところがとても魅力的である。

三浦しをんさん、やっぱりすごい。

この作品は『WOOD JOB ! 』という映画にもなっている。絶対観ようっと。