トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

『虹暈』チンギス紀 北方謙三  集英社

まだ何冊もある、と思うと幸せで自分を抱きしめたくなる。

面白いし、一行一行を楽しめる。

テムジンだけでなく、当時のモンゴル及び周辺の諸将、民、商人などが鮮やかに蠢動していて心躍る。主人公=善、その敵=悪 というような心萎える図式ではない。

この巻で興味深かったのは、自分の営地を襲ってきた敵軍を追い払い三十人を捕らえたとき、首を刎ねて晒し者にしたテムジン。彼が初めて苛烈さを剥き出しにした局面だ。

それまではまだ少年らしさの残る、ひたすら懸命な活動が描かれていたのだ。

次にトクトアと片目の狼ダルドの交流。一人で猟をするトクトア、生きるために彼について猟を手伝うようになるダルド、けっして馴れ合わない両者の関係が胸をざわつかせる。

そして一番魅力的に描かれているのが玄翁だ。

戦を愛する玄翁は、羊百頭の謝礼でトドエン・ギルテのために自分の兵五十騎を動かす。忽然と現れ、敵陣を分断し、なぎ倒す。その分の働きを済ませたと思えば、風のように引き上げる。

謎の人物だし、動きも読めない。

この男をテムジンは旗下に加えるのか、使いこなせるのか。

モンゴルの他の諸将の中から抜け出るテムジンの凄さがこれから描かれていくのだ。

芋焼酎のお湯割りと共に静かにページをめくる夜更けは、至福のひとときだ。