何年か前、広島の三滝という場所を一人で歩いたときのメモが出て来た。
広島駅発。9時47分発のJR可部線に乗る。
十分足らずで三滝駅。無人駅だった。
川べりのバス停へ行ってみたが、一時間に一本という本数なので歩くことにする。
地蔵堂のバス停までは順調だったが、その後の団地の中で迷ってしまった。通りがかりの女性に道を教えてもらって、バスの終点へたどり着く。
行き会った親子が「猪が出た」と話していた。「夜は怖いね」などと。
多宝塔を木々の枝越しに見ながら、ゆっくり歩いて行く。絶えず水の音。
石のベンチに腰掛けて、しばし休憩。
茶店があり、ガラス窓越しにくつろいでいる人たちが見えた。帰りに、寄ろう。
きれいに整備された空き地に小さなお墓が寄り集まるように建っている。
「これは原爆で亡くなった人たちのお墓です。お参りしてください。」と立て札。
まるで炎に追われた人々が身を寄せ合っているようなお墓で、いとおしさと痛ましさに胸がうずく。
ここは祈りの山なのだと思う。
梵音の滝、幽明の滝。
三滝寺にお参りする。線香、蝋燭を上げ、絵馬をかける。
竹林を抜け、宗箇山へ。距離は1600メートルとあったが、高峠山への分岐までは長かった。しかし、なだらかな私の好きな山道だった。
地図を見ていると、向こうから来た男の人が、「きれいな所でしたよ」と教えてくれる。
その人は「30分くらいかな」と言っていたが、案外早く頂上に着いた。
標高356メートルの頂上からは、海や宮島が見える。
頂上では男女三人組が休憩中だったので、ほっとして私も休憩。一人だとやはり緊張するのだ。
登りとは別の道を下り始めてまもなく、お弁当を食べている夫婦に行き会う。
道を尋ねられて地図を見せながら話す。でも、ほんとうは一人歩きの私を気遣って声をかけてくれたのではないかという気がする。
さて、下りは「すべりやすい」とあったが、急な山道というより涸れた谷川のような感じで、ずりずりと細かくすべり降りる。
結局、長束という所に下りてしまい、あの風雅な茶店には行けずじまいだった。
1時50分。4時間近く歩いたのだ。
バスで紙屋町へ。
宋箇山の麓は竹が多い。久々にモンキチョウを見た。
急坂なので時間は大幅に短縮できたとは思うが、今となっては「道だったのかどうか」よく分からない帰路であった。雨の後などは泥だらけになるのだろう。