トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

『ブータンの瘋狂聖 ドゥクパ・クンレー伝』 岩波文庫

隙間時間にちょっと開くのに軽くて薄くて面白そうな文庫を持ち歩いている。その一冊。

表紙に「奔放な振る舞いとユーモアで民衆に仏教の真理を伝えた」とある。15世紀の聖人の話だ。遊行僧で、ブータンやその周辺各地を歩き回ってその土地の美人たちとまぐわいながら、布教している。

ぱらぱらとめくって、最初の教え「馬鹿なことでも言い続ければ、母親でも口説き落とせる」が面白かったので購入。

また、最初の方の「この物語を読む資格のある人」の項。「物事の是非がわからず、仏の深い御教えに信心のない人、自らを制することができない人たちはお読みならないように」は正しい。この瘋狂聖は、至る所で美人と「まぐわう」からだ。

しかし彼とそうなった各地の小町たちはみな悟りの境地に達する。というか、信仰の行為としてまぐわうのだ。それは、「仏教の本質である知恵と方便の深い結合」であるからだ。

信仰の心篤い人々は、彼と出会うことにより、すべて納得し、真理に目覚め、あるいは修行へと導かれ、あるいは解脱の境地を得る。各地の魔物たちも改心して土地の守り神となる。人間の本性を肯定し、ごまかして上っ面を装う輩は化けの皮をはがされる。それもすべてドゥクパ・クンレーが仏教の真理一つを堅持しているからなのだ。

痛快な物語だ。