『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』のブレイディみかこさんの著書。
おばさんたちはすごいけれど、おっさんたちもがんばってるよ、という本だ。
考えてみると私達はヨーロッパ、特にイギリス、フランス、ドイツについて幻想というか、憧れというか、根強い憧憬の気持ちを持っている。パリでシャンゼリゼを歩くとそれだけで舞い上がってしまう。いや、「オー シャンゼリゼ」と歌うだけで気取ってしまいがち。
「うちの主人は英国が好きですから」
近所のおばさんが気取った口調で言ったことがある。
みかこさんの描くイギリスは、そういう英国ではない。世代、階級の格差、歪み、失業、転職、子連れ離婚、ブレグジット。労働者階級の貧しい人々が住むブライトンの丘の上に住む彼女が見ている世界には英国紳士などいない。生き生きと生活をエンジョイするシニア、もいない。テレビの紀行映像には描かれない世界だ。
いるのは、矛盾だらけの、だらしない、働き者の、自由な、抑圧された、労働者。ふわふわのオムレツみたいな「いい人たち」なんかいない。しかし「何か一つのことに関して無駄なほど豊富な知識を備え」ていたりする。恋もするし、中国人へのいじめに立ち向かったり、公共図書室で若い母親を手助けすることもある。
そこには、ああこれが人間なんだと思わせるリアリティがある。これが人生なんだ。これが世界なんだ。
私が好きだと思ったのは、スティーブ。高齢の母親の介護をしながら、休める日には図書館へ通い、読書にいそしむ。ティーンエイジャーが中国人への嫌がらせを始めたときにはパトロール隊を組織して止めさせる。強面の男なのに、図書室で若い母親たちや幼い子どもから慕われる。
カサノヴァのごとくもてまくった過去を持つダニーも面白い。
読んでいると、日本の普通のおっさんたちの中にもこういう人たちがいるんじゃないかという気がしてきた。テレビの世界では、「東大生」やセレブ、華やかなタレントたちが踊っているけれど、ほんとに面白いのはこういう人たちじゃないかと思わせる力強い内容の本だ。
第2章、現代英国の世代、階級、酒事情について記述もとても興味深い。
現代日本をこんな風にシャープに観ている人、いるかな?