トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

『流浪の月』 凪良ゆう著 東京創元社

 

『流浪の月』 凪良ゆう著 東京創元社

更紗のお母さんは荷物を持たずに両手を空けて歩くのが好きだった。両手をぶらぶらさせていたい、と言う。

そんなお母さんを世間の人は「浮世離れしている」と言った。それは、「マイペースすぎてやばい人」という意味らしい。

両親の下で永遠に続くと思われていた幸せな日々は、お父さんの死をきっかけにして崩壊してしまう。お父さんの居ない世界では、更紗自身がお母さんの荷物になってしまったのだ。

ここから、更紗と文の物語が始まる。

二人の関係は、世間の常識の枠から外れている。男女の愛でもないし、同性愛でもない。異常な小児性愛でもないし、利己的な依存関係でもない。世間一般のことばでは表現されない関係だけれど、お互いに必要としている。愛がある。息をして生きていくためにお互いを必要としている。

お互いを得た二人は、これ以上何を望むのだ、と思う。

世間が認知する立派なレッテルの中身が幸せなのではない。

自分にちゃんとしたレッテルが貼られていることに安心し、他人にレッテルを貼って安心する。それ以外のレッテルのない存在は社会から抹殺しようと企む。そういうのが社会に適応したいい人間とされ、社会の中でマイノリティとしての力を持つ。

でも、そうじゃないんだとこの作品は言ってる。

私も、そう思う。レッテル人間は社会に適応しているように見えるかもしれないが、幸せだ勝ち組だと他人を見下げているが、喜びは知らないように思う。

久々に「小説」に引き込まれた気のする作品だった。

この人の本もまだまだあるし、これからも書かれて行く。とても、楽しみ。