夏中楽しんだ上橋菜穂子作品にまたはまっている。
「奏者」とはどういう意味なのか。
猛獣「使い」ではなく、「操者」でもなく、「奏者」。読み終わったとき、この言葉の意味が静かに心に沁みてくる。
これはすごく重いテーマだ。エリンは動物への深い愛を持ちながら、彼らを操る人間として生きることを余儀なくされる。国の運命がかかった戦を任されたエリンはどうするのか。エリンの生きる道は、母が闘蛇を死なせた罪を負わされて酷く処刑されたときから、厳しく切ないものとなった。
やがて王獣を「操る獣の奏者」となったエリンは、全存在を賭けて王獣と向かい合い、愛を注ぐ。使役や操ることではなく、音楽で互いの魂を通い合わせる。
しかし、野生の獣がその獣性を完全に失うことはない。人間が彼らを戦の道具として使うとき、恐ろしいことが起こる。
あらすじは書かない。
私は、この壮大な物語を楽しみながらも、自然と人間の共存や愛の本質について思いをめぐらせた。
エリンの生きる世界に身を置いて、共に生き、苦しみ、喜んだ。
そういう、旅するように読む物語の一つだ。