トマト丸 北へ!

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『獣の奏者』Ⅰ~Ⅳ 上橋菜穂子著 講談社文庫

夏中楽しんだ上橋菜穂子作品にまたはまっている。

「奏者」とはどういう意味なのか。

猛獣「使い」ではなく、「操者」でもなく、「奏者」。読み終わったとき、この言葉の意味が静かに心に沁みてくる。

これはすごく重いテーマだ。エリンは動物への深い愛を持ちながら、彼らを操る人間として生きることを余儀なくされる。国の運命がかかった戦を任されたエリンはどうするのか。エリンの生きる道は、母が闘蛇を死なせた罪を負わされて酷く処刑されたときから、厳しく切ないものとなった。

やがて王獣を「操る獣の奏者」となったエリンは、全存在を賭けて王獣と向かい合い、愛を注ぐ。使役や操ることではなく、音楽で互いの魂を通い合わせる。

しかし、野生の獣がその獣性を完全に失うことはない。人間が彼らを戦の道具として使うとき、恐ろしいことが起こる。

 

あらすじは書かない。

私は、この壮大な物語を楽しみながらも、自然と人間の共存や愛の本質について思いをめぐらせた。

エリンの生きる世界に身を置いて、共に生き、苦しみ、喜んだ。

そういう、旅するように読む物語の一つだ。