ロードオブザリングの前のエピソードだ。
ビルボ・バギンズというホビットが、13人のドワーフ(ホビットより少し大きな種族の小人)と魔法使いガンダルフに誘われて、スマウグという龍に奪われたドワーフの宝を取り戻しに行くという冒険の物語。
ロードオブザリングは、このビルボの111歳の誕生日、彼が養子フロドにこの旅で手に入れた魔法の指輪を託すところから始まるのだ。
このいきさつを知るだけで胸がざわざわして、寂しいような魅せられたような、旅の気分が波立ってくる。
フロドは真面目一方の奴だが、ビルボは父方母方の祖先から受け継いだ冒険心と実際的で穏やかな気質とを併せ持つ愉快と言ってもいい男だ。また、けっして仲間を見捨てない勇気と忠誠心の持ち主でもある。
ビルボは自分の中に流れる「トック家の血」にいざなわれてこの途方もない冒険の旅に出てしまい苦難に会う度に後悔することになるのだが、その都度彼の「しのびの者」としての力が発揮され、自信を持つと同時に大きく成長していく。そういう、私の大好きな「旅」と「成長」の物語だ。
それに対してドワーフたちは時に功利的な面も見せる現実的な奴らだ。最初はビルボの能力に疑問を持っていたし、数々の活躍の後でさえ最後にビルボを見捨てそうにもなる。しかし彼らなりに誠実であり、ビルボとの間にはしだいに深い絆が結ばれていく。
魔法使いのガンダルフはビルボをこの旅に巻き込んだ張本人であり、もっともビルボを信頼しその能力を見抜いている。この旅の成功のためにはビルボが必要不可欠であることを、知っていたのだ。
ガンダルフのビルボに対する信頼は最後まで揺らがず、二人は深い友情で結ばれることになるのだ。
ひとつひとつの冒険、苦難については述べない。文句なく最高おもしろい、とだけ言っておこう。
旅を終えた後ビルボはなつかしい我が家へ戻る。そこに待っていたのは快い現実ばかりではなかった。彼はあまりにも長く家を留守にしたし、あまりにも他の村人たちと違う体験をしてしまったからだ。そういうほろにがさはあるものの、ビルボはありきたりでない冒険の旅をしたのだ。友情のきずなも得た。それだけが重要なことだと思う。