村上春樹のインタビューを読んだついでに「夫婦の相続」という記事に気づいた。連れ合いはこれを読んだんだな。
とても良くまとまっていて、いろいろ参考になった。
特に最後の「生前準備実践ガイド」は、書き込み式「相続準備ノート」がついていて、記事もわかりやすく、相続に対するスタンスもいいなと思った。
特に「相続準備ノート」の中のSNSのアカウントなどの項目は自分では考えつかなかった。また、「パスワードなどはそのまま書くと危険なので家族にだけわかるヒントを書いておくと良い」など、行き届いている。
いちばん良いと思ったのは、58ページの「もめない遺言書作成の必勝ポイント」だ。
今まで相続についての参考文を読んでいて、すごく違和感を感じていた。その目的が「自分の財産を好きなように分ける」「遺したい人に残し、そうでない人には分けない」であり、人の「気持ち」や相続後の人間関係までは関知しないものが多かった。
この「もめない遺言書の必勝ポイント」は、「曽根恵子氏への取材を基に編集部作成」とあるが、目から鱗だった。
相続の準備は認知症になる前に
これはもっともなことだと思う。
普段からコミュニケーションを取る
書かれているように、「何かあったときだけ円満に話し合うなど到底無理」なのだ。
お互いの事情や考え方などがわかっていれば争いや感情の齟齬も起きにくいだろう。
遺言書はこっそり作らない
「誰かが作らせたと疑心暗鬼の種になりかねない」とある。確かに爆弾を落とすようなことになるかもしれない。
公平に分けられないときは理由を明記
「不平等感こそ争族の根源。『付言事項』に意思を残すこと」とある。
遺言書に不備がなかったとしても、「親は弟の方をよけいに愛していたんだ」とか受け取ったときに気持ちはどうなるだろう。できるだけ公平にしたほうがいいけれど、できないときはせめて納得してもらう努力が必要だと思う。
財産だけでなく感謝の気持ちも残す
「争族を防ぐ最良の説得材料になる」とある。
特に最後の二つはとても大切だと思った。
「財産をやる」という考え方は貧しすぎる。それぞれへの感謝の思いこそ、残すべきではないだろうか。「争族を防ぐ」ためだけではないと思う。
遺すのは財産だけではないだろう。遺したいのは暖かい思い出や愛情や感謝の思いなのではないだろうか。それこそが親が子供に遺せる最良のものなのではないか。
私も、父の相続があったが、思い出の一つは、最後に病院で二人だけで父と語り合った時間だ。父の方からはもう言葉を発することは出来なかったが、私からは感謝や楽しかった思い出を語ることができたし、父が理解してくれていることはその目から分かった。私たちは仲が良かったのだ。
残念だったのは、親族の一人が父の意識がなくなったと思うまで私たちの傍に張り付いていたことだった。「見張っている」感じだった。その人が居る場所では素直に話せないこともあったのに。
実際には意識がなくなったわけではなかったのだが、父が話さなくなったと思うとすぐさま彼女はトイレに立った。そのときの嫌な気持ちは忘れられない。
今そのときのことを思い返すと、父は私に話したいことがあったのではないかという気がする。二人きりになって初めて話せることもある。それは相続のことで、私には遠慮してもらいたいと、その理由を私に納得のいくように話したかったのではないか。それをちゃんと聞いて、安心させてあげれば良かった。父がはっきりと言葉に出来なくても私から言ってあげれば良かったのだが、そのときは考えが及ばなかった。あるいは私の心のどこかに、その話は聞きたくないという思いがあったかもしれない。父の気持を聴く時間があればよかった。
でも、心は通じ合ったと思うし、その父の気持が、私の生きる支えのひとつになっている。