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キレる! 小学館新書 中野信子著

 

キレる!(小学館新書)

キレる!(小学館新書)

 

 昨日読了。テレビで見る著者の人間性に興味があって手に取ったらすごく説得力があった。

まず著者は「人間なら誰でも怒りの感情が湧き起こる」と怒ることは自然な感情だと言ってくれている。怒ってはいけない、怒ることは損だと刷り込まれ怒る感情を抑圧してきた私には救いのような言葉だった。

「そして相手があなたの気持を汲んで言動を改めてくれることはない」とある。これが長い間私には分からなかった。我慢して穏やかに接していれば相手はいずれ自分の非に気づいてくれると馬鹿の一つ覚えのように無抵抗でやってきたのだ。「相手ががまんすればするほど、その人からいろいろなものを搾取しようとする」のが人の性なのに、それが分からなかった。こういう人についてもP76などに「最初に相手が強い態度に出た時に、自分が一歩引けば、相手も引いてくれて丸く収まると勘違いしてしまうのです。~引けば引くほど自分の領域が狭くなっていきます。結果的に自分がいる場所がなくなってしまうのです。」と書かれている。ほんとに色々なコミュニティからすぐ逃げてしまい自分の場所がどんどん狭くなっている実感がある。

この本には「どうキレてどのように抵抗すると相手と良好な関係を保ちながら自分を大事にすることができるのか」が豊富な例と具体的な方法と共に述べられている。「二度と不当な攻撃をされないように返す言葉、態度をできるだけたくさん覚え、練習しておく」ことが必要なのだ。

「当人が怒って立ち向かっていかなければ」ならない。P32「自分の代わりになって、誰かが本気で解決してくれることを期待するのは難しいことです。自分のこと、人生を真剣に考えられる人は自分だけです。」ほんとにそうだと思う。私はいつも他人に期待していた。「あなたたちはこんな理不尽を見過ごすの?」的な態度を醸し出していたかもわからない。自分が自分のことを見過ごしているのに他人に期待するなんて虫が良すぎた。

大草原の小さな家」のメアリーは、教師として最初に赴任した学校である女性からひどい妨害と苛めを受ける。お父さんが「おれが話そうか」と言ってくれたが彼女は「自分で言います。これは私の問題だから」ときっぱり言い切った。かっこいい。こうあるべきだ。

キレなくても普通に穏やかに話せばいいじゃないと言う人もいるかもしれないが、

P38「自信のある人、気の強い人であれば、キレることもなく、相手を圧倒することもできるでしょう。でも、そうでないほとんどの人は、自分の主張や反論をうまく相手に伝えることができません。ですからキレるという、意識のアクセルを一気に踏み込むような行動が自分を守る術として必要なこと」ということである。

怒るべき時に怒れない人は、「平和なところでは生き延びるが、そうでない場所では生き延びることができないかもしれない」のだ。

ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニンなどの脳内物質の働きを述べ怒るメカニズムを脳科学的に説明している部分がとても面白かった。ああ、あの人は前頭前野が委縮しているんだと理解することができる。

様々なスキルの説明も参考になった。明解でとても面白い。

同時に思ったのは、みんな大変なんだなということだった。パワハラ、セクハラなどに対抗して自分の居場所を作るために、みんな工夫し戦っているんだ。野の花のように生きている人などあまり居ないのだ。「アンダードッグ効果」を狙う方法など私にはとてもがまんできそうにないが、生きるためにそれでもがんばっている人がいるのだ。生活を守るためにそこから撤退しないでもいいように必死でいろいろやってるんだと思った。

著者も苦労はしてきたのだと感じる。昔同僚の女性に「いい人になるな」とたびたび言われたと書かれているが、そう言われたということは著者も「言い返せない」人だったのかもしれない。上から目線ではない平らな土俵の上で論じていること、自分を飾らない態度に敬意を感じた。