あまり好きではないシチュエーション、あまり好感の持てない登場人物たち。誰に感情移入すればよいのかわからない小説が私は苦手だ。特に推理小説は。
けれども面白く読み進んだ。先へ先へと引き込まれていく。小さな違和感がだんだんとふくらみ実体を持っていき、人間のエゴが浮き彫りにされていく。同時にドーピングや肉体改造によって人間性が破壊される恐ろしさが静かに胸に迫る。心はもう人間でなくなった翔子の最後の姿に暗澹とした気持ちになる。
そして読む者は、獲物を追うように相手を追い詰めて復讐の牙を剥く美しき殺人者にいつしか同化してしまうのだ。彼女の最後の言葉は以外にも女としての悲しみを洩らしたつぶやきだった。深い!