トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

『あかんべえ』上・下  宮部みゆき 新潮文庫

開店したばかりの江戸深川の料理屋「ふね屋」を営むのは太一郎、多恵の夫婦。二人には一人娘のおりんがいる。おりんには不思議な力があり、亡霊を見たりそれと話したりも出来る。

「ふね屋」にはおりんたちが来る前から住み着いている亡霊たちが5人いた。物語の進行と共にこの5人の亡者たちが迷っている訳、おりんがその不思議な力を持つようになった訳が明かされていく。

おりんがかわゆい。まだまだ親に甘えたい年齢であるのに、しっかりと物事を見て取り亡霊たちにもひるまない。情愛深い彼女は親と亡霊たちとの板挟みになって悩んだりもする。亡霊たちと仲良くなるのだが、ふね屋の営業にとってはお化けが出たりするのは致命的だ。彼女は亡霊たちが早く成仏することを願うが、彼らと別れることが辛くもあるのだった。亡霊たちがこの世に執着する訳を探るのも彼らへの情愛とふね屋の商売繁盛を願う気持ちと両方から動いているのだ。可愛くてけなげで、しっかり者なのである。

おりん以外に私の好きなキャラクターは、隣家の旗本、長坂主水助と妻のみさえだ。ぼろぼろになった屋敷を修繕することもままならない無役の貧乏旗本なのだが、夫婦仲が最高にいいのだ。二人は荒れ果てた庭を愛でながら心から満足して暮らしている。それ以上何を望むだろうか。長坂もまた亡霊たちの謎にかかわりのある一人なのだが、その結末は彼のさっぱりした気性と同じく後味の良いものだ。

物語はわりと予想したような結末なのだが、江戸の暮らしと登場人物の魅力でぐいぐい読ませる。解説にあるように「ファンタジーとミステリと人情味が絶妙のあんばい」なのである。もう私は宮部みゆきの江戸物にどっぷりとはまっているのだ。

 

あかんべえ(上) (新潮文庫)

あかんべえ(上) (新潮文庫)

 
あかんべえ(下) (新潮文庫)

あかんべえ(下) (新潮文庫)