トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

『幸福の黄色いハンカチ』 山田洋次監督

 

何十枚もの 黄色いハンカチが風にはためく場面を、どうしてももう一度見たかった。1枚だけじゃなくて、黄色一色の万国旗のように何十枚もぶらさげられているのだ。

この映画のテーマは「宥」ゆるしだと思う。殺人と言う取り返しのつかない罪を犯した勇作は他の誰よりも自分が許せなかったに違いない。自分が許せない彼は愛する妻の光枝へも自分自身へも背を向けて逃げ続けることしか出来なかった。

道連れになった欽也と朱美に自分の過去を打ち明けた時、「どうして俺はこうなんだろう」と嘆息した。そのときはじめて自分自身と向き合ったのではないか。怒りを抑えることができず罪を犯してしまったどうしようもない自分を受け入れはじめたのではないだろうか。繰り返し何度も自分に問うたであろう問い、「どうして自分はこうなのか」を改めて自分にぶつけたときから、そういう自分を生きるしかないのだと覚悟が決まったのではないか。

勇作と光枝は刑務所に入ろうが離婚届に捺印しようが、そんなこととは関わりなく深いところで結ばれていたのだと思う。光枝は勇作を許していた。ケチな「許してあげる」ではなくハンカチ何十枚分もの大きな許し、大きな愛なのだ。つながっていた光枝との愛が勇作に生きる力を与えたのだろう。

途中勇作が連れていかれた警察署にいた渡辺という温情ある警官が渥美清だった。渥美清。この人が画面に出るだけでうれしくなる。笑顔に心が明るくなる。泣きたくなるような心に沁みる笑顔だ。

警察で泣いている女性役で「男はつらいよ」のおばちゃん役三崎千恵子さんが出ていたのもうれしかった。

もとより健さん大好きの私。すべてのシーン、すべてのカットが懐かしく愛おしいものだった。