散歩をしていると、小さな社に「ご祭神 イワナガヒメ」とあるのが目に入った。
その瞬間、イワナガヒメのイメージがスーッと私の中に入ってきた。
古事記に出てくるイワナガヒメは、醜女とされている。妹のコノハナサクヤヒメを見染て求婚したニニギノミコトに、父親のオオヤマツミノカミは「姉妹二人を差し上げます」と言い、二人をニニギノミコトのもとへ送った。ニニギノミコトはイワナガヒメの容貌が気に入らず、送り返してしまう。オオヤマツミノカミは立腹し、「華やかな栄華と長寿の両方が叶えられるようにと二人をお送りしたのに、イワナガヒメを返すとは。これであなた様は神としての長寿を失い、人間としての短い命になってしまいました」と言う。
「ブスだから要らない」。ほんとうに幼稚な発想だ。理由も送り返した行為も無神経。天照大御神の孫で神武天皇の曽祖父という貴い血筋だけれど、性格はどうなのだろう。この男は、すぐに妊娠したコノハナサクヤヒメにも、絶対に言ってはいけない一言を言ってしまう。あまりにも早く子宝を授かったため妻を疑い、「俺の子じゃないんじゃね?」とか言ってしまうのだ。怒ったコノハナサクヤヒメは、産屋に火を放ち、炎に包まれて出産する。「正真正銘あなたの子なら、炎の中でも無事に生まれるでしょう」すごく気が強い女なのだ。この後の結婚生活が思いやられる。
それはともかく、私に入って来たイワナガヒメのイメージは、長身でほっそりとしたモデル体型。色は浅黒く、アーモンド形の大きな目、天然パーマのかかった鉄色の髪。つまり、スーパーモデルのようなカッコいい女だ。現代ならば。
一方コノハナサクヤヒメは、色白のポッチャリ型。切れ長の目、小さな口元。鳥毛立女屏風の感じだったのではないか。
どちらも美しいが、頭の固いニニギノミコトにはイワナガヒメの魅力が分からなかったのだ。
イワナガヒメはどうなっただろうと古代に思いを馳せる。九州の方には、彼女が稲作を行ったという伝説があるらしい。きっと、彼女の魅力を理解し愛してくれる働き者の男と生活を共にし、農民たちから敬愛されて一生を終えたのではないか。
こんなことを想像しながら、松林を歩いた。