トマト丸 北へ!

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『ふたり』 唐沢寿明(幻冬舎文庫)は読むべき一冊

 

 p84 踏みつけられてつぶされる人間と踏みつけられるほど強くなっていく人間、その違いは何なんだろう。おそらく「自分はダメじゃない」という人としてのプライドではないだろうか。

 

 唐沢寿明はカッコいい。ただ立っているだけでも訴えてくるものがある。

 唐沢君と言えば私の中では、昔見た「ねえ、チューして」のCMだ。アパートの外階段の踊り場で女の子に「チューして」と言われる。この言い方、私にとっては嫌悪以外の何物でもないのだが、その後の唐沢君がもう、ほんとに良くて。このCMのほんの数十秒でこの男の魅力とここに至るまでのストーリーが胸にさっと入ってくる。役者ってすごいなと思った。

  次に彼が私の中でクローズアップされたのはNHK大河ドラマ利家とまつ」。颯爽とした若武者姿がすごく良かった。

  最近ではなんと言っても「24 JAPAN」。

 そしてこの本。こういう人だったのか、といい意味でびっくりした。

 部分を切り取って紹介するよりとにかく読むべきだと思う一冊だ。

 このタイトル「ふたり」の意味が山口智子さんとの「ふたり」ではないというところがいい。

 スクリーンのブルース・リーに惹かれたことから始まった「役者になりたい」という夢を一途に追っていく姿に心打たれる。「芸能界に入りたい」とか「テレビに出たい」ではなく、「役者になりたい」だ。家を飛び出し、高校を中退し、疎外されたり追い出されたりしても彼は自分を信じることを止めない。

 彼の生き方にはすべての道に通じるものがあるような気がする。とても励まされた。

 唐沢さんと一緒に成長していく山口智子さんもほんとにすてきだと思った。

「彼女とつきあいはじめてから、それまで俺の食べていたのは、ただの『エサ』だったとわかった。」(p188)という一文に二人の関係性が端的に表れている。この一文を書けるということだけでも唐沢さんに惚れてしまう。月並みかも知れないが、それは「愛」という言葉で言い表されるものだと思う。料理上手だとか「胃袋をつかむ」とかグルメとか、そんな言葉とは違う次元の話だ。唐沢さんだけのために山口さんが用意する食事だということだ。普通の食材を使った普通の料理であっても、ひとりの人のために用意された特別の食事なのだ。

 役者ってルックスでも演技力だけでもなくて、その人が培ってきた人間性のようなものが感動を与えるのだと改めて思った。「ただ立っているだけでもカッコいい」のには理由があるのだ。