トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

『ブレイブ・ストーリー』上中下で三日間が祝祭にっ!

 

「生きにくい気候が、生きにくい社会をこしらえた。」

「非アンカ族を根絶やしにし、この北大陸で覇権を勝ち得たアンカ族。同じ者ばかりが寄り集まって、ではようやく平和に暮らせるようになったのか。とんでもない。今度はアンカ族同士で同じことをやり始めた。」

 その中で安心しきっていた家庭が崩壊してしまった少年ワタルは、自分と家族に振りかかった酷い運命を変えるために「幻界」へ旅立つ。そこは現世とワタルの心を反映した不思議な世界だ。幻界の北大陸で見たホロコーストのような世界。ワタルと同じように幻界に旅立ったミツルが感じたのは「ばかばかしい。救いがたい狂妄と痴愚」だということだった。 

 すごく良くわかる。自分と違う種族を排斥するという行為は、もっと小規模にだが身近なところでも行われている。毛色の変わった人をグループから排除しようとする。気に入らない奴をハブる。しかしそうやって単一となったかに見えるグループの中が平和なわけではない。そのグループの構成員たちは、他人を迫害することが習い性となってしまう。その行為で生きていることを実感するという歴史をいったん刻んでしまうと、そこから脱却することが難しいのだ。虐める側になるということは、同時に虐められる立場を含んでいるのだと思う。

 この構造は無くならない。一人の人間の中でさえ、光の部分だけでは成り立たないのだ。光も闇も、喜怒哀楽も憎しみも、すべてを受け入れ包括することでしか人は生きられないのだ。

 幻界を旅したワタルの学んだことの1つがこれだ。超絶おもしろいだけでなく、内容は深い。そして読み終えると現実に立ち向かう勇気が湧いてくる。この本は、読む者自身のブレイブ・ストーリーでもあるのだ。

 運命を変えようと旅をしたワタルが得たものが何かは、ここには書かない。結論がわかっちゃったら、読む楽しさが半減するからね。