監督 クロエ・ジャオ
ファーン フランシス・マクドーマンド
ディブ デビッド・ストラザーン
リンダ リンダ・メイ
スワンキー スワンキー
ボブ ボブ・ウェルズ
ちきりんさんが「この映画は人生の最後の30年をどう生きるか」というプレゼンテーションのような映画だという意味のことを述べられていたが、確かにノマドの過酷な生活や社会的背景よりもファーンという女性の生き方に焦点が絞られている。『ノマド』を先に読んだ私としてはその点がちょっと物足りない部分ではあった。しかし一人の女性の老後をたんねんに描くことにより「ノマド」という生き方をくっきりと浮かび上がらせるという手法はありだし、成功していると思う。
原作にもあったネバダ州の企業城下町に住んでいた60代の女性ファーンが主人公。彼女は原作には登場しない。ファーンとデビッドは映画のために創作された人物だ。ファーンは愛する夫を亡くした後もその町に住み続けたが、リーマンショックによる企業倒産で町そのものが閉鎖され、住む家を失い、車上生活を始める。
ただひとり広大なアメリカのハイウェイを行くファーンの表情、道端で排せつする姿、街を離れるとき見送る社員とハグする姿、どれも心に刻み込まれる。フランシス・マクドーマンドは以前観た「スリービルボード」での演技も印象的だったが、今回も忘れられない存在感だ。映画化の始めから制作にもかかわっているとのこと。
どこかに書かれていたことだが、ファーンは「誇りをもって自由を生きる」という人生を選んだ。姉の世話にもならず、ディブの一緒に住もうという申し出も退け、アマゾンの倉庫やビーツの収穫などの仕事をする。どれも苛酷な肉体労働だ。キャンプ場の管理人の仕事は3Kで、汚れた便器や汚物の処理も含まれるのだ。しかし彼女が味わったのは苛酷な生活だけではなく、壮大な自然に抱かれるすばらしい体験でもあった。それらすべてを含めてのノマドとしての生活を彼女は選び取り、頭をしゃんと上げて生き抜くのだ。「先生はホームレスになったの?」と尋ねる教え子の少女に「ホームレスではなくハウスレスよ」と答える。
ファーンとディブ以外のノマドはほんもののノマドが演じている。本で読んだリンダ・メイ、スワンキー、ボブが出演しているのだ。これも、リアリティ十分ですごい映画だと思わせるゆえんだ。助け合いはするけれど、けっしてもたれ合わないノマドの生き方を納得させる人物像だ。リンダ、出演料がアースシップを作る足しになってればいいなと思う。