トマト丸 北へ!

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西加奈子『おまじない』の「孫係」はナイスアイディア

 

 8つの短編が収められている。どれも心にかりかりと引っ掛かり、適度な快感のある作品。西加奈子さんの小説って、いい。

たぶん同じ感想を抱く人が多いと思うが、「孫係」がいちばん好き。

すみれの家におじいちゃまがひと月滞在することになった。12歳のすみれは「いい子」で学校でもほめられることが多く、家でも一人娘として愛されて育っている。

父親が大好きなママはダンディなおじいちゃまを大歓迎する。すみれもおじいちゃまが好きだ。しかしどこかに違和感を感じている。どこかに無理があると感じている。

両親がそろって外出したある日、すみれはうっかりと「ひとりになりたいなぁ」とひとり言を言ってしまい、はっとする。隣の部屋におじいちゃまがいるのだ。ふすまがそろそろと開き、おじいちゃまがリビングに入ってくる。あわてるすみれ。

しかしおじいちゃまは「わたしもだよ」と言った。

無理をしていたのは、すみれだけではなかったのだ。

誰にでも好かれ快活でやさしかったおばあちゃま。完璧に見えたおばあちゃまも実は外面だけが完璧で、おじいちゃまと二人きりのときは他の人たちを罵ったりしていたと言う。それは偽善ではなくて、「やさしさ」なのだと。正直とやさしさは別なのだ。

それを聞いたすみれは表面の言動を飾っている自分に対する嫌悪がすっと無くなるのを感じる。おじいちゃんは、すみれをいい子だと言ってくれたのだ。

「係だと思いましょう」とおじいちゃまが提案する。「係だと思ったら、なんだって出来るんです。」

すてきな提案だ。これ、取り入れようと思った。

心から愛したり、出来なくていいのだ。自分の内面まで理想形にしようとするから苦しくなる。妻でなく「妻係」、良き隣人ではなく「隣人係」。当番だと思えばいいのだ。立派な人間になろうとしなくていい。肩の力を抜いて、表面だけ、「係の者」として生きて行こうと思う。本音をもらす場所だけ確保しておいて。

本筋とは関係ないが、西加奈子さんは動物の描写もすごくうまい。この作品にもコッカースパニエルのラブが登場する。ママがすごい勢いでおじいちゃまを歓迎する(そしてすみれがそれをいたたまれなく感じる)場面のラブがかわいい。p69「ラブも、何かに圧倒されていた。小さくおならをした後、恥ずかしそうに尻尾を振った。」可愛すぎる!