芸術祭賞などに入選した傑作脚本集。
久しぶりに脚本を読んだが、すごくおもしろい。小説よりむしろ脚本の方が、生き生きと映像が浮かんでくる分伝わってくるものがある。キャストも載っているのでビートたけしなどのしぐさや表情が目に浮かび、実際にドラマを観ているみたい。
松本清張の作品の2007年版。松本清張の作品は数多く映像化されているが、どれも見ごたえがある。
ある意味王道を行くほんとうにドラマらしいドラマだ。いっこくな刑事鳥飼が地道に執念を燃やして犯人を追い詰める。不器用な、愚直な努力がしだいに周囲を巻き込んでいく。淡々と描かれているようでいて、仕事として取り組んでいた刑事たちを鬼の世界へと引き込んでいく迫力がすごい。
こころの深い所まで人を引き込むドラマに古いも新しいもないのだと思った。
「鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~」
なんだろう。ワタクシにはちょっと消化できなかった。
このようにしか表現できなかったのだと思う。
「反戦」とか「戦争はもう嫌です」「戦争をしてはいけません」とかいう言葉だけではくくれない戦争に思いを致させる。
たまたま「戦争を知らない子供」に生まれ、肉体的な暴力とは縁なく育ち、絵本の世界をほとんど現実と思って生きて来たワタクシに、この作品の咀嚼はむつかしい。でも、たぶん、「今」考えるべきなのだと思う。ひとりでも多くの人が世の中を良くすること、良く生きることを考えなければ大きな流れは変えられない。とうてい変えられないものだとしても、そうするべきだ。それはたぶん、威張りかえってマウンティングすることが生きがいの偉そうな人々にはできないことだ。しっかりと地道につつましく生きている人たちが最後は世の中を動かすのだと、信じたい。
「恋せども、愛せども」
「祖母」と「母」が同時に結婚しようとしている。東京と金沢を舞台にして現代を生きる女性の人生の選択を描く作品だが、「年をとっても恋愛も結婚もできる」とか、「自分の気持に正直に生きればいい」とか、通り一遍の展開にはならない。向田邦子さんの作品を思わせるようなしっとりとした中にシニカルな視点を感じる。
しかし日本の作品って。今「セックスアンドザシティ」を毎日観ているのだが、比べるとなんとなくイリイリとしてしまう。職種は違っても、雪緒と理々子の働き方、上司に対するスタンスはいじましい。(恋人に対しても、なんだかな。)どうでパワハラされるにしても、「ここまで」と決めた覚悟が感じられない。これが「リアリティ」というものなのかな。
関係ないがワタクシがどの仕事もうまくいかなかったのも当然だ。理々子たちのような我慢は、ワタクシはできない。
「わたしたちの教科書」ー第一話・第二話ー
脚本 坂元裕二
記憶にあたらしい「大豆田とわ子と三人の元夫」をはじめ、好きな作品の多い脚本家だが、これはちょっとあざといのではないかと思った。
珠子の明日香への仕打ちが、どうにもつらい。自分を頼ってくる幼いいじらしい人間をああまで拒否できるものか。明日香が死んでから行動を起こすのがどうにも手遅れ感が強すぎる。観る者の心の弓を極限まで引き絞ってからパッと放つと言ったらいいのだろうか。その引き絞る段階が辛すぎるのだ。
いじめられて死に至る人間は、直接いじめた相手にだけでなく、誰も彼もにいじめられ、世界中に見捨てられているということなのか。
二話までしか載っていなかった。これは最後まで読みたかったな。
「プラットホーム」
脚本 北阪昌人
あたたかく、人情味あふれるいい作品だった。ラジオドラマらしく、幻想と現実が入り混じって美しい。菜の花畑が目に浮かぶようだ。
ラジオドラマって、あまり聴かないけれど面白そうだ。時間も空間もふわっと飛び越える。映像がない分想像力の展開がはんぱない。そして、人生もいいな、捨てたもんじゃないと思わせてくれた。