U-NEXT で視聴。全6回。
原題は THE UNDOING 。「破滅」というような意味だと思う。
監督 スサンネ・ビア 脚本 デイビッド・E・ケリー
グレイス・フレイザー ニコール・キッドマン
まず、タイトルバックの音楽と幼い女の子の映像がすばらしい。グレイスの幼少期のイメージなのだろうか。際立って美しいけれど謎めいてもいる少女が走り、踊り、空へと両手を伸ばす。イギリスの童話の挿絵のような可愛い怖い、怖いけど可愛いという。この始めの部分だけでも繰り返し観てしまう。
本編は、アガサ・クリスティーの『検察側の証人』の裏返しと言えばいいのだろうか。すべての登場人物が疑わしい中で、さらに予想を裏切る驚きの展開が待っている。
グレイス・フレイザーは、小児がんの権威である夫とお金のかかる有名校に通う一人息子ヘンリーと3人で暮らすセラピスト。裕福で社会的地位にも家庭にも恵まれたセレブだ。その父フランクリン・ラインハート(ドナルド・サザーランド)は金と権力を持ち、グレイスを心から愛している。夫のジョナサンにとってはややけむたい存在だ。
ヘンリーの通う学校のチャリティー競売があった日の翌日、ひとりの生徒の母親が惨殺死体で発見された。殺されたエレナ・アルヴェスは貧しい画家で、他の裕福な保護者たちの中では浮いた存在だ。グレイスはやさしくふるまうが、やたらに距離を詰めてくるエレナにどこか薄気味悪さを感じていた。
エレナを殺したのは誰か。疑われたエレナの夫にはアリバイがあった。エレナと顔見知りのグレイスも事情を聞かれたりするが、思い当たることはまったくない。
回を追うにつれて深まる謎、不信と信頼の間でゆらぐグレイス。ジョナサンには秘密があったのだ。そしてグレイス自身にも語っていないことがあり、息子のヘンリーにも隠していることがあった。家族全員に秘密がある。
始めのころのシーンで、ジョナサンが息子を学校へ送って行くシーンが好きだ。
ヘンリーはバイオリンを習っている。
「このごろどうだ?」と尋ねる父にヘンリーは、「先生は口ではいいことを言うけれど、目が『止めてしまえ』と言ってる」。
「お前、ほんとうはバイオリンが嫌なんじゃないか。止めたいと思ってる」
「そんなことないよ。バイオリンはすごく好きだ。止めたくない」
「そんなら、先生なんかほっとけ。バイオリンは自分のためにやるんだ」
ヘンリーの顔が明るくなる。
「先生に敬意を持ち、一生懸命練習することは大切だ。でも、バイオリンは先生のために練習するんじゃない。先生なんか、バイオリンに顔を押し付けてやれ」
最後のひと言を除いては、いい会話だと思った。いいお父さん。
これって、すべてのお稽古事に言えることだと思う。ワタクシはどうも、人間関係に重点を置きすぎる。自分が好きなことなら、続ければいいのだ。「先生なんかほっとけ」って、気持ちが楽になるいい言葉だ。
ジョナサンは、そういうことを息子に言ってやることのできるいいお父さんで、息子のヘンリーも彼を慕っている。末期がんに苦しむ子供にも、彼はやさしい。ユーモアで不安な心を癒してあげる姿にはじんとする。
しかし人間は複雑で、思いもよらない側面が露わになることもある。セラピストのグレイスにも不安定な部分がある。グレイスの父親フランクリンにも、娘に明かしていない暗い過去があるのだ。
それらの二面性が表面に出てくる場面に迫力があった。そこまで持って行く展開も極上。
これはすごく面白いドラマだ。まだ観ていない人がいるだろうからこれ以上は書けないが、観るべき作品だと思う。