トマト丸 北へ!

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山崎ナオコーラ『文豪お墓まいり記』 文春文庫

ナオコーラさんが日本の近代文学の巨匠たちの墓参りをするという、ショートトリップエッセイ。都内や関東近郊のお墓が多いので、行ってみようかなという気にもなる。

文学案内だがガイドブックではなく、ナオコーラさんの身辺の話が適度にちりばめられている。大好きなナオコーラさんと一緒に墓参できる本だ。

有吉佐和子さんの項が印象に残っている。

「私はグループというものすべてがきらいだ」と言うナオコーラさんだが、有吉佐和子の小説の中に「グループに収まる面白さ」を見ている。自分と違うスタンスの作家を否定することなくその本質をつかもうとしているところがいいなと思う。他の所でも書いたが、こういうのがナオコーラさんの「距離の取り方」のうまさだ。

自分と違うものを否定しない。理解する、表現する、この二つに感情は必要ないのだろう。小説家なのだ。

芥川龍之介の項、

「アイデアは誰でも思いつく。どれだけそのアイデアにこだわって、熱を入れて作れるかで作品の良し悪しが決まる」という宮城聡さんのことばを引用してあるが、なるほどと思った。

「どんな芸術分野でも、作り手の情熱と細かい表現が、傑作を生む」

そういうことなんだな。

「あとがき」に「私は『諦める』ということばが好き」とあり、そこは私と違う。私はあきらめたくない人だ。

ナオコーラさんの「あきらめる」は、字義本来の「あきらかにする」に意味が近いのではないだろうか。ものごとをよく見て、その本質をつかむ。作家としてのまなざしを言っているのではないだろうか。そこもすてきだと思った。

また、墓参と食事がセットになっているところもおもしろい。お墓の近くで肉を食う。なんか、いい。