「 自分には重大な任務が残っていたことを思い出した。
~中略~
これを忘れてはならない。最も大事なことだ。これを伝えなくては、彼の新たな旅
は始まらないー。
宮本は声をかぎりに叫んだ。
『トキオっ、花やしきで待ってるぞ』」
物語の結びのこの文章がよくて、鳥肌が立つくらい。
荒唐無稽な話をここまで持ってくるなんて、作家ってほんとにすごいと思う。
m氏のブログで紹介されていておもしろそうなので買ってきた。読んでいるとなんだか以前読んだことがあるような気がしてきた。忘れていた。でも、そのときはこれほどおもしろいとは思わなかった気がする。解説やレビューの効用だ。
拓実という粗暴で自己中で短気などうしようもない青年がなぜか憎めず、失敗しても失敗しても、バカばっかりやっても、見捨てることができずハラハラしながら読み続けた。なんとかうまく行ってほしいと思わずにはいられない。
やはりはてなブログで読んで買った『あの頃ぼくらはアホでした』もすごく面白かった。で、東野圭吾は若いころ拓実と似てたんじゃないかと思ったりもする。バカなところではなく、一見バカなように見えても一本筋が通っていて他人に好かれるところが。
ふつうのまっとうな大人社会からははじき出されるタイプだが、拓実には行く先々で味方ができる。この男に好意を持ち、なんとかしてやりたいと思う人たち。裏社会の人間ですら彼に対しては人間らしい一面を見せる。そしてなにより息子に愛されている。読者ももちろん彼の味方。
ノンストップで読ませる、そして心があたたかくなる本だった。