トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

田村美葉『できるだけがんばらないひとりたび』 KADOKAWA

副題は「ひとり旅する前に知っておきたい51の心得」

この題名と副題はイマイチだと思う。「がんばらない」がいかにもという感じだし、副題の「心得」という言葉があまり好きじゃない。上から目線を感じる。

でも本の内容はぜんぜんそうじゃない。「旅」の楽しさに満ちた本だ。タイトルの付け方、むつかしいなと思う。

 この本を読んで「スパイラルエスカレーター」という言葉を初めて知った。著者の旅の「IT」がこれだ。自分のテーマを持って世界を回るというの、すてきだと思う。

 「観光」の旅はどんなにいろいろ回っても変わり映えしない。何カ国も旅して山ほど写真を撮っても、最終的には何も残らない。自分が写っているのにいったいどこの写真なのか分からなくなってしまったり、する。でもそれでも行かないよりましだ。ほんとにほんとにお出かけしたいと思う。今はしかたないから代わりに旅の本を読むのだ。

 「自分へのおみやげはいつもの日用品や食料品にする」「いつもの服を着る」「3食きっちり食べなくてもよい」「飲みなれたペットボトルを持ち歩く」など、いろいろ役に立ちそうなことが書かれているが、著者の「自分が自分らしく旅するためのルール」は3つ。

①ふだんしていることをする。

 旅、特に「ひとり旅」に出るというと「今までしたことがない特別なことをしよう」とか「みんなに自慢できるような体験をしよう」と気負いがちだ。また後で「なんであそこを見なかったの?」「なんでコレを食べなかったの」とか言われると悔しい思いになったり。ほんとに著者が書いているとおりだ。でも旅に出ることそのものが特別なことで、ふだんとは違う場所へ行くだけで十分なのだから、特に変わったことをしようと無理をする必要はないと書かれている。これ、失敗しないコツだと思う。今の「旅」はハレではなくケなのだと思う。

②損得を気にし過ぎない。

 せっかく遠くまで来たのだからと欲張るとろくなことがない。また、「最安値での購入」を自慢しがちなのも「あるある」だ。船の旅をしたとき寄港地を去った夜は「何をいくらで買ったか」の確認が行われ、嫌でたまらなかった。なぜか最安値で買った人がマウントを取るのだ。でも正直に言うと、いちばんよく使ってる言葉は「でぃすかうんと?」だ。

③自分の力を過信しない。

 これはほんとにだいじだと思う。

 ①~③を通じて、著者の考え方の基本は旅が非日常であるからこそ自分まで「非自分に」なっちゃいけないということだと思う。「普段の自分ができないことが旅先で出来るわけがない」「旅先で『新しい自分』をさがそうとしない」と書かれている。著者が提案しているのは「日常を暮らすような旅」だ。

 こういう旅が私もしたい。すぐさまお出かけしたくなる、そういう本だ。