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感想・小野不由美『風の万里 黎明の空』十二国記 上下 新潮文庫

『月の影 影の海』に続いて陽子が出てくる。

鈴、祥瓊、陽子と私の十二国記4大ヒロインのうち三人が登場する。(4人目はもちろん『図南の翼』の珠晶)

貧しい家に生まれた鈴は12歳で売られた。売られる先はガス灯がまたたき鉄道馬車が走る東京だった。人買いの男に連れられての旅の途中崖から転落し、気が付いたとき鈴は虚海に浮かぶ船の上にいた。

祥瓊は十二国のひとつ芳の公主(王の娘)だった。彼女がこの物語に登場する場面は父王が弑され、母もまた首をはねられるという凄惨なシーンだ。父王の施政があまり苛烈であったため討たれたのだ。

鈴は言葉もわからぬ異界にほうりだされ、苦しみの果てに才州国の凌雲山の翠微洞に住む梨耀の下で働くことになる。仙籍を得れば言葉が通じるようになるという点にひかれたのだ。しかし梨耀はわがままで苛烈な人使いをする女だった。鈴は梨耀のいじめのターゲットになってしまう。他の人間関係にもなじめない。

祥瓊は仙籍も身分も失い、恵州のはずれにある里家という施設で暮らすことになった。そこの管理をする女性に公主であったことを知られ、父王に息子を殺されたその女性から壮絶ないじめを受ける。

鈴と祥瓊はさまざま苦難を経て成長するのだが、その途上で景王である陽子に会いたいと願うようになる。鈴は同じ倭国からこの異界へやってきた陽子なら自分の苦しみを理解してくれると信じた。祥瓊は陽子が自分の失ったすべてを手に入れて得意になっていると思い込み、同じ苦しみを味合わせたいと願った。

その陽子は慶の新王として登極したもののこの国の言葉すらわからず、読み書きから学ばなければならない有様。倭国生まれの陽子はこの異界の仕組みや風俗習慣国情すべてにうとく、なかなか臣下の信頼を得られないでいた。その上慶では女王による失政が二代も続いてしまっており、そもそも女王に対する不信感があったのだ。信頼できる臣下も数えるほどしかいない。

陽子が殊に悩んでいたのは初勅をどうするか。「勅」は他の法令とは異なり王自らが作成し宣下するものだ。陽子は初めて下す勅令をただ無難であるだけのものにしたくなかった。これからどういう国を作るのかを端的に示すものにしたいと強く思っていた。

悩んだ陽子はついに身分を隠して旅に出る。国と民の実情を知らなければ何も決められないと決心したのだ。

鈴、祥瓊、陽子の三人が出会うとき、慶国の未来にも新しい希望が見えてくる。そして陽子の宣下した初勅は?

p388からの結びの場面は陽子の面目躍如。めっちゃクールだ。

「人は誰の奴隷でもない。そんなことのために生まれるのじゃない。他者に虐げられても屈することのない心、災厄に襲われても挫けることのない心、不正があれば糺すことを恐れず、けだものに媚びず、ーーー私は慶の民にそんな不羈の民になってほしい。己という領土を治める唯一無二の君主に。そのためにまず、他者の前で毅然と首(こうべ)をあげることから始めてほしい」

この言葉、私の心に刻んだ。「人に頭を下げるたびに、壊れていくもの」があるという陽子の言葉も、ほんとうだと思う。

 

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