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宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』は最高にかっこいい小説だと思った

 『成瀬は天下を取りにいく』

この題名からして最高にかっこいい。

読んでみてその予想は裏切られなかった。

 

あらすじ

成瀬あかりと友人島崎みゆきの小学校から高校までの物語。

「いつだって成瀬は変だ」

何においても常に周囲から頭一つ優っているが成瀬は変わっている。

「走るのは誰より速く、絵を描くのも歌を歌うのも上手」だった幼稚園時代。小学校に上がると学力でも他を寄せ付けない。

そのために孤立するようになるが、成瀬は淡々としている。

ある時、同じマンションに住むみゆきに「島崎、わたしはシャボン玉を極めようと思うんだ」と告げた。そして「天才シャボン玉少女」としてテレビのローカル番組に出演する。

翌日クラスの女子たちは成瀬のまわりに集まった。

そうなっても成瀬あかりは態度が変わらず、飄々としたままだ。

島崎みゆきは成瀬と違って「凡人」だと自分で思っている。小学生時代は自分がいじめられるのを恐れて孤立している成瀬から距離をとっていた。

中学校に入るとクラスは別だったが、同じマンションなので一緒に登下校していた。

成瀬は他人の目を気にすることなくマイペースに生きている。

中学二年の七月三十一日、成瀬は「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」と告げる。

大津市唯一のデパート西武大津店は一か月後の八月三十一日に閉店することになったのだ。西武大津店はデパートと言っても銀座の三越みたいなイメージではなく、地元に密着した普段使いの感じのデパート。そこから五分の所にあるマンションに住む成瀬にとって特別の思い入れのある店だ。みゆきは他所から引っ越してきたのでそこまでの思いはない。

「夏を西武に捧げるって?」

「毎日西武に通う」

そしてみゆきに「ぐるりんワイド」というテレビが毎日生中継するからそれに映り込む自分を毎日チェックしてくれと頼んだ。

ここから物語が動き出し、二人はコンビになっていく。

 

感想

成瀬の生き方は胸がすっとする。マイペースだけれど冷たいわけではなく、友情も地元愛も深い。大きな目標をいくつも上げるが達成できなくても気にしない。たくさんトライしてどれか達成できればいいし、どうなってもそれなりの成果はある、という考え。

こんな生き方ができればいいなと思わせる。独特の話方も好きだ。

対するみゆきは成瀬のような「変」なところはなく、常識人でコミュニケーション能力も高い。空気も読める。

しかしみゆきはけっして成瀬の影ではない。成瀬がマイペースであるようにみゆきの軸もぶれることはないのだ。

ふたりの距離感がとてもいい。

成瀬の痛快な生き方に癒される。