トマト丸 北へ!

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『アシュラ』 上・下 ジョージ秋山 幻冬舎文庫

実の母親に焼き殺されそうになるという悲惨な体験からサバイブしたアシュラの「とにかく生き抜く」物語。

時代はたぶん、平安時代。地方の貧しい荘園。

自分らしく、とか自分の人生を、とかいうレベルではなく、人間として、でさえもなく、とにかく、生物として生き抜く。とうてい耐えられないと思われる過酷な状況や殺戮や苦難にもめげずに、彼は生き延びる。不死身のアシュラ。生き延びるためには殺してもいい、を実践して生き抜く。

やられてもやられても生き延びる生命力。その強靭な生命力はまるで呪いのようだ。

アシュラ。すぐに死んでしまったなら、これほど醜い体をさらして無慈悲な戦いに身を投げ出すこともなかったのに。

たやすく滅びるものだけが、美しく在ることを許されるのだ。

でも、子供たちは彼についていく。むごい世の中にあって何が何でも生き延びるアシュラに希望を見たのではないか。

ところで若狭と七郎のエピソード。

ほんと、若狭って、やな女だと思う。美人だと思って、自分には特別な人生が用意されているはずだと決めているのではないか。なんの成算もなく、ただ好きというだけで男にしがみつき、二人して不幸になるなんて。早いうちに彦次郎のものになっておけば、七郎だって(最初は気を悪くするかもしれないが)、ひどい目に合わずにすんだのだ。彦次郎だって、悪い男にならずにすんだのではないか。

何もかも若狭の胸三寸にあったのに、何も考えない。腹立つ。