トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

『わが家は祇園の拝み屋さん』(望月麻衣)を読む 1

 

ごく平凡に育った中学生小春に突然異変が訪れた。他人の気持ちが読めるようになってしまったのだ。友達だと思っていた子たちの本音を知ってしまい、SNSで誹謗中傷までされて、小春は学校へ行けなくなった。

順調に育っていると思っていた一人娘の苦しみを両親は理解できず、どうすることもできないでいた。心配する両親に自分の秘密を打ち明けることもできず、小春の心は追い詰められていく。

そのとき京都の父方の祖母の電話で、しばらくこちらで一緒に暮らしたらと言われる。小春の祖母櫻井吉乃は祇園和雑貨店「さくら庵」を営んでおり、和菓子職人の叔父宗次郎が同居している。さくら庵で売られている宗次郎の和菓子は大人気で、和雑貨の売れ行きをもしのぐほどだ。

「身内以外、誰も自分のことを知らないところでなら、生きて行けるかもしれない」と小春は思う。

しっかり者の吉乃、飄々とした雰囲気の宗次郎は傷ついた小春を温かく迎えてくれた。

小春がさくら庵に到着したとき訪れていた美貌の青年、賀茂澪人は祖母の弟の孫、つまり小春のはとこに当たる親戚筋だったが、それは小春にとって運命的な出会いだった。

祖母は不思議な力を持っており、やがて宗次郎も澪人もただものではないことがわかってくる。祖母の一族は特別な一族であり、祖母は和雑貨店の女主人でありながら「拝み屋さん」の仕事もしているのだ。

ある日小春は辰巳稲荷で迷子らしき小さな蛇を見つける。これこそ小春の前世にまつわる大きな秘密へとつながる事件だった。

この物語は不思議な力を持つ少女小春の成長の物語であると共に京都の神社案内、和菓子の魅力満載の物語である。

 

1巻の神社 八坂神社、辰巳稲荷、安井金毘羅宮神泉苑晴明神社

 

和菓子 桜餅、和風マカロン、ミニあゆ、水無月

 

お祓い 安井金毘羅宮で怨念に取りつかれた女性、亡き妻の亡霊を見る男

    消えた兎(澪人の姉杏奈の相談・てぬぐいの模様のうさぎが消えた話)

    不審な雨

 

おことば 「多くの場合、怨霊は人の心が作り出すんだよ」

     「うさぎを消したのは、あんたの気持ちやで」

     「過ぎた献身や自己犠牲が美しいなんて俺は微塵も思わない。自分が幸せで

     相手も幸せが一番だろ? 誰かの幸せのためににどうして誰かが犠牲になっ

     て、それが『美徳』になるんだ?」

     「自分を安売りするのと謙遜はベツモノだ。履き違えるなよ」

     「今度は自分を殺さず、自分らしくがんばろうぜ」

 

小春と若宮 小春、小蛇(黒猫)姿の若宮を辰巳稲荷から神泉苑へ運ぶ

 

「おことば」は、この物語の中で私の心に残ったことば。たぶん登場人物の口を借りて神が述べていることだと思うので、「おことば」としてまとめてみた。