西加奈子… こーんなに可愛い名前なのに、すごい小説が書ける人。
最近読み始めて、ファンになり、全作品を読み上げようと決意、というか、とても楽しみにしている。
東北らしき小さな漁港に暮らす母と娘。
娘はほっそりと美しい小学4年生の少女。母は焼肉居酒屋で働くおでぶちゃんだ。
母は、肉の塊みたいなので「肉子ちゃん」と呼ばれている。母は菊子、娘は喜久子。音だけだと同姓同名なのだ。
娘の目を通して見た肉子ちゃんと母子二人の貧しい生活が淡々と語られる。
肉子ちゃんの魅力は、正直なところだ。自分が正直だから、他人も疑わない。忖度もしないし、言葉の裏を読んだりもしない。だから男にだまされる。だまされても、疑わない。肉子ちゃんの世界は気高いほどシンプルな世界だ。
肉子ちゃんの人生には拠り所がある。休日が来るとわくわくするし、どんな人の死でも死は悲しいし、食欲の秋にはバンバン太る。
自分を飾らない肉子ちゃんは自分自身も疑わないし、他人をマウンティングする必要もない。才能だとか学問だとか美貌だとか、世間一般で良きものとされているものは一つも持たないけれど、楽しく元気に生きている。すごく魅力的だ。
娘の喜久子もナイーブな感受性としなやかな強さを併せ持ち、人を引き付ける。
二人の日常が語られるうちに、喜久子が虫やモノの声を聴くことができる謎や、母子がちっとも似ていない謎が明らかになるのだが、その秘密も心打たれるものだ。
読むべき一冊だ。
作者は後書きで、小説家として「すべての肉子ちゃんを描きたい」と書いてくれている。ほんと、頼もしい。