トマト丸 北へ!

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TV東京ドラマ「シェフは名探偵」西島秀俊主演が終わってしまった😢

ビストロ「パ・マル」のシェフ三舟は半径5メール(推定)の謎を解く名探偵だ。

このドラマの舞台は「パ・マル」の店内とその表の通りまでが範囲でその外に出ることはない。人物も店のスタッフ4人と若きオーナー、店を訪れる客などだけで外の世界は描かれることがない。

そこがまずおもしろい。

三舟シェフはスーシェフの志村と共にこの店の中で最高の料理を作り、ギャルソンの高築、ソムリエの金子と共に最高のおもてなしをする。その仕事を通じて気づいた客の悩みを推理し、解決へ導くというお話だ。

この店に来る人たちをもてなすことで「パ・マル」は世界に通じている。店内はけっして狭くないのだ。

シェフ三舟役の西島秀俊がほんとに素敵。シェフとしての立ち姿のカッコよさ、暖かい笑み、張らなくてもよく通る声音。もう何もかも良くて毎週楽しみにしていたのに終わってしまった。子供だった三舟が木の椅子に座って父の働く姿を見ていたように、私もずっと三舟の料理する姿を見ていたかったのに。

三舟シェフの生き方は私の理想だ。

天下国家を論じることと対極にある生き方。シェフと言う彼の天職に一切の妥協なしに取り組み、常に完璧を目指し、その仕事で人々をもてなす。客のどんな注文にも出来る限り対応する。ここではどんな客も受け入れられる。その信頼感が客を安心させる。おいしいものを安心して食べることのできる心地よい空間が創造されているのだ。

もしかすると三舟がタイに触りながら述べる深い洞察は実は幻で、ほんとうは客自身が自問自答しているのかもしれないと思う。この店に身を置いてうまい料理を食べていると自分自身に向き合う勇気が湧いてくるのではないか。落ち着いた心に光のように啓示が示されるのではないか。そんな気もするのだ。

そこにいることで安心し、前に進む勇気を得ることのできる空間を作るのは私の理想だ。自分独りすらくつろがせることができないでいるけれど、目指してはいる。温かいヴァン・ショーをそっと差し出してあげられるような人になれたらいいな。

半径5メートルでいいのだ。共有した人に勇気が湧いてくればそれは世界へも宇宙へもつながるのだから。

三島シェフは自分の大好きな仕事に没頭することで心から幸せなのだと思う。だからそれが可能なのだ。彼が自分自身を裏切らない限り、仕事も彼を裏切らない。

ほんとにいいドラマだった。工夫があっておもしろく、心満たされた。「パ・マル」という店名の謎が最終回で明らかになるという仕掛けもおしゃれだ。三舟に傾倒しているスーシェフの志村もまっすぐで温かい。ギャルソンの濱田さんもオーナーの佐藤さんも良い味を出していた。ソムリエ金子の俳句?も楽しかった。俳句って、こういうものかも。

近藤史恵さんの原作もぜひ読んでみようと思う。

原作 近藤史恵  『タルトタタンの夢』『ヴァン・ショーをあなたに』

         『マカロンはマカロン

脚本 田中真一西条みつとし

三舟シェフ 西島秀俊

スーシェフ志村 神尾佑

ギャルソン高築 濱田岳

ソムリエ金子 石井杏奈

オーナー 佐藤寛太