トマト丸 北へ!

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不朽の名作=ヴィクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』をオーディオブックで聴いた

「生涯尊敬できる者と出会うこと、また全身全霊をかけて愛せる者と出会うこと、その両方を得たジャンバルジャンはきびしい人生ながら、この上なく幸福であったと言えましょう。」

 ジャンバルジャンの死に際して贈られた言葉が胸を打った。

 貧しさゆえに一切れのパンを盗んだジャンバルジャンは家族を案じるあまり脱走を重ねて結局19年間も投獄されていた。釈放されたものの寄る辺の無い彼を救ったのはミュリエル司教だった。貧しい客のためにこそ使うのだと言って銀の食器で彼をもてなす。しかしジャンバルジャンは銀の食器を盗んで逃亡する。

 ジャンバルジャンを逮捕して連れて来た警官にミュリエル司教は「その食器は差し上げたのだ」と言う。「この銀の燭台を忘れて行きましたね」と銀の燭台まで差し出すのだ。ミュリエル司教の無私の心、それよりもなによりも彼の中の善なる心を信じてくれたこと、あなたはもう更生していると言い切ってくれたことがジャンバルジャンの胸を打ち、苦難に満ちた人生を生き抜く力となったのだ。

 もう一人、コゼットがいた。貧しい母フォンティーヌは強欲で残忍なテナルディエ夫婦にだまされて幼いコゼットを預ける。身軽になって身を粉にして働き、コゼットの養育費を仕送りする。しかしテナルディエ夫婦はその金を着服し、コゼットを虐待してこき使っていた。ついに病に倒れ亡くなったフォンティーヌのためにジャンバルジャンはコゼットを救出、愛を注ぎ、養育する。

 警官のジャベルはジャンバルジャンの更生を認めず、「世間をたばかる元囚人」として追い続ける。ジャベルにとっての「法と秩序」は富栄えている者たちだけのためのものだった。ジャベルはそういうものを守ることが自分の使命だと思い込んでいたのだ。

 フランス革命に続く激動期のパリで、ジャンバルジャンとコゼット、革命を志す青年マリウス、ジャベルの運命が交差し、ぶつかり合う。

 小学生のころ「世界文学全集」で読んだ『ああ無情』は印象的だった。アン・ハサウェイの美しさが印象的な映画「レ・ミゼラブル」も良かった。やはり原作が名作だからだと思う。

 このオーディオブック版はコンパクトになってはいるがジャンバルジャンとジャベルの確執に焦点を当てて非常におもしろく、心揺さぶる作品になっている。充分に満足できた。