分封ユダヤの王エロドは、兄の死後その妻だったエロディアスと結婚している。
予言者ヨナカーンはエロドを非難するが、王は予言者を恐れているので殺そうとはしない。
囚われのヨナカーンを恋して言い寄るエロディアスの連れ子サロメがこの戯曲の主人公だ。
ヨナカーンにはねつけられたサロメは憎しみを抱き、王にヨナカーンを殺させようとする。
美しいサロメに王は下心があった。妖艶な舞で王の心をつかんだサロメは、「なんなりと望みの物を褒美にやろう」という王の約束を盾にとってヨナカーンの首を要求するのだった。
いい男をいたぶりたい、という気持ちが女にはある。「お前の口に口づけさせておくれ」という誘惑の言葉からしてヨナカーンをさいなみたいという暗い残虐な欲望が言わせた言葉だ。囚われた男は無力であるがゆえに最高にエロティックで、サロメの心をそそる。
文学を読むということは、自分の心の深淵に降りて行くことでもある。
読んでいて、自分とまったくかけ離れた存在であるサロメの心情が、私の胸になぜかくっきりと伝わってくるのだった。とすると、こういうサディスティックな欲望というのは私の中にもあるし、多かれ少なかれすべての人の心の奥底に眠っているのかもしれない。この暗い物語が人々の心を引き付けるというのは。