トマト丸 北へ!

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『珈琲いかがでしょう』最終回は永久保存もの

たぶん佳香さんという方だと思うのだが、とても素晴らしいレビューを書いておられたので、もう付け加えることもないようなものだが、大好きな作品なのでやはり一言書きたい。なので、書く。

後味の良い終わり方だった。謎も解け、みんな収まるところに収まったという感じの終わり方だ。実際にはこんな終わりはないかも知れないが、でもあってもいいのではないかと思わせてくれる。後ろ手に縛られて、垣根さんとペイを人質のようにされて、絶体絶命のところからの青山のアクションで始まる。

青山を無理にでも自分のものにしようとする三代目が哀しい。「スマートな暴力を教えてくれ」という三代目に「スマートな暴力なんかないんだよ」と叩きつけるように言う青山。他人を殴り倒すことが彼自身をどれだけ傷つけていたのかが伝わってくる。たこさんの珈琲に出会う前から彼の心は悲鳴を上げ、救いを求めていたのだ。

この場面で、三代目と垣根さんとペイが青山を取り合うのも、ちょっとコミカルでいい。その様子を見守る夕張もしぶくていい感じ。好きな場面だ。

次はたこさんの妻幸子が、青山の届けたたこさんの喉仏の骨を手の中で砕き、珈琲と共に飲み込む場面。「たこさん、一緒のお墓に入りましょう」「これでたこさんは私の一部になったわ」と言う幸子こそ最高に粋でポップだと思う。(市毛良枝さん、すてきです!)

いちばん好きなのが、幸子がお墓の予定地へみなを案内して、青山が珈琲を淹れる場面。ここで青山の珈琲を飲み、今まで珈琲の味がまったく分からなかったペイの表情がそのとき初めてやわらかくなる。(「今日俺」の時から磯村勇斗くんに注目していた私、目が高い! ついでに伊藤健太郎くん、自分がみっともないことをしたと認めて、謝り倒して、絶対に復帰してほしい。中途半端な姿勢だとこの国の大人たちは許さない気がする。頭を丸めたAKB48の女の子くらいの気概を見せてほしい。きっと嫌な思い、悔しい思いをいっぱいすることになると思うけれど、この仕事が好きなら、がんばって、頭をしゃんと上げて、やり通してほしい。あのつまづきを無駄にせず、一回り大きくなってと願わずにはいられない。)

話が逸れたが、とにかく磯村勇斗くんのぺいには母性本能をくすぐられる。どんな役をやっても魅力のある人だと思う。

ほかに好きなのは、回想のたこさんが「どうせなら粋にポップに生きたいじゃない」と言う場面。このセリフが好き。病弱な幸子、貧しいたこさん、2人ともきびしい運命を生きたのだけれど、ぜんぜん負けてない。世の中を笑い、ポップにしてやるぞという気持ち、移動コーヒー屋さんを開いて日本中の人たちにおいしい珈琲を飲ませたいと夢見る気概に打たれるし、明るい気持ちになる。若いころのたこさんも、いい。

そしてもちろん全編を通じて中村倫也が素敵。エプロン姿が最高にイケてるし、ひとつひとつの表情におばさんはいちいち癒されるのです。この漫画のような(原作が漫画だから当たり前だけれど)ストーリーにリアリティを持たせる演技力、暖かさと包容力と寂しさと哀しみと生きる覚悟と、男の魅力のほとんどを詰め込んだ、ぴったりのキャスティングでした。「珈琲いかがでしょう」というセリフをこんなに素敵に言える人はほかにいない。