トマト丸 北へ!

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宮部みゆき『ドリームバスター』のフルスロットルな世界観

 

現代の日本のとある場所に生きているあなた。あなたの心がストレスや恐怖で悲鳴をあげるとき、それを聞きつけて別の星からやってきた凶悪犯罪者があなたの夢に入り込む。実体を持たない彼らは、生き延びるためにあなたからエネルギーを吸い上げ、あなたの意識を乗っ取ろうとしているのだ。

悪夢に怯えるあなたを救うのは、彼らと同じ星からやってきたドリームバスターたちだ。DBたちもあなたの夢に入り、あなたと協力して極悪な犯罪者を捕えようと戦う。

DBのシェンは孤児で、いかついおっさんのマエストロに拾われて彼と共にDBとして働くことになった。二人は犯罪者を捕えた報奨金で暮らしを立てている賞金稼ぎなのだ。

シェンたちの星は陸地が非常に少ない。互いに争っていた小さな国々が統一されて「旧連邦」となるが、政府の命令で行われた極秘の実験により、大爆発が起こる。その実験とは、人間の意識を肉体から切り離し、自在に動かすというものだった。その爆発でシェンたちの星テーラから地球への通路ができ、実験に使われていた極悪な死刑囚たちが電気的パルスの集合体という形で地球に逃亡したというわけだ。

この物語の設定は複雑だ。DBたちが住む世界は矛盾と理不尽に満ちているし、シェンの生い立ちに至っては悲惨と言っていい。生半可な覚悟では生きて行けない世界だ。宮部みゆきの筆力は読者を強引にその込み入ったハードな世界へ連れ込んでいく。

また、シェンたちと逃亡犯たちとの対決の場所となる「場」=「あなたの脳内」も複雑で謎に満ちている。そこに何があるか、何が隠れているか、あなた自身も知らないのだ。

この物語では、物語が設定されている二つの星(テーラと地球)と、DPの脳内という二つの世界が描かれていて、どちらも苛酷で救いが無いし、あたたかくやわらかな夢にあふれてもいる。いずれにしても活力を限界まで振り絞らなければ生きて行けない世界。表面はおだやかな日常を営んでいたとしても実はフルスロットルで駆け抜けなければならない世界。おぞましくも美しい、人を引き付ける世界だ。

少年シェンもとても魅力的だ。ドライでシビアで優しくナイーブでもある。あなたが女性なら、心にある傷を隠し、亡き友人の衣服だった赤い鉢巻をしめてさっそうと戦う美少年に母性をかき立てられるだろう。

まだ1,2までしか読んでいないが、続きがとても楽しみだ。