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『魔力の胎動』『ラプラスの魔女』 東野圭吾 角川文庫

『魔力の胎動』を読んでその尻切れトンボな終わり方に「???」だったが帯を見て「『ラプラスの魔女』とつながる」物語と書いてあったので、さっそく書店へ。『ラプラスの魔女』、読んだような気もするけれど覚えていなかったので。

これはやはり両方読むべき。複雑で怪奇で謎に満ちている。ミステリの魅力がてんこ盛りの2冊だ。

2冊に共通するメインの登場人物羽原円華は小柄な少女と言っても良い若い女性だ。吊り目勝ちの目が印象的な彼女は不思議な力を持つ。その力の秘密もミステリの一部だ。

『魔力の胎動』で円華は神の手を持つ鍼灸師工藤那由多の傍に頻繁に姿を現し、ナユタの患者が抱える問題に光を当てて解決へと導く。全盛期を過ぎ自信を失ったスキージャンパー、魔のナックルボールへ挑んで破れたキャッチャー、障害のある息子を水の事故で亡くした教師、仕事でもプライベートでも人生を共に歩んでいたパートナーを失って絶望するピアニスト。彼らは円華の歯に衣着せぬ言葉と魔力にも見える力によって自分自身と向き合う勇気を得た。そしてナユタ自身も……

円華がナユタの前に姿を現したのはなぜか。その謎とナユタの覚醒の謎は『ラプラスの魔女』へのプロローグでもある。

ラプラスの魔女』にはナユタは登場せず、円華は新しい相棒とも言うべき青江と出会う。青江は『魔力の胎動』の最後に出てきた環境分析化学を専攻する科学者だ。ひなびた温泉の村で起きた硫化水素による中毒死の謎を解くよう警察に依頼され調査する青江の前に何度も現れる羽原円華。ただし青江はナユタとは違い物語の立会人のような役割を持っている。

『魔力の胎動』で影のようにぼんやりと見えていた重要人物たちが、しだいに霧の中から姿を見せ、その姿をあらわにしていく。事件の全貌と円華の力の謎が明らかになるとき、読者は人間の在り方について大きな疑問を突き付けられることになるのだ。

大満足の2冊。

 

魔力の胎動 (角川文庫)

魔力の胎動 (角川文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2021/03/24
  • メディア: 文庫
 

 

 

ラプラスの魔女 (角川文庫)

ラプラスの魔女 (角川文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2018/02/24
  • メディア: 文庫