トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

『とり残されて』宮部みゆき

 北上次郎の「解説」がとても良かった。宮部みゆきの本って、私の好きな人がよく解説を書いている。すごい豪華メンバーの解説ばかりなのだ。

北上次郎は7つある作品のうち最後の「たった一人」を絶賛。極上の解説だ。しかしこの解説を書かせるというのが宮部みゆきのすごさだと思う。

夢の中で何度も訪れる見知らぬ交差点。気になってならない梨恵子は、その場所を見つけてくれと探偵に依頼する。

夢の中で初めて来た場所なのになぜか胸がうずくという経験は誰もあると思う。私もある。梨恵子と違って私の場合、そこはよく知っているなつかしい場所という設定だ。道の先に帰るべき家があるという。しかし実際にはまったく訪れたことのない場所だし実在するかどうかもわからない。そしてお定まりの終わり方、たどり着かないうちに目が覚めてしまうのもいつものことだ。

そういう「あるある」から始まって、いつの間にかそこはかとなくロマンスの香りが漂ってくるのに驚く。きゅっきゅっと胸をうずかせながら進んで行く物語はせつない。

「運命を変えてはいけないなんて、戯言だ。それじゃ生きる価値もない。」北上次郎も取り上げていた一文だ。超クールである。

表題の話「とり残されて」も良かった。

「どこかに、とり残してきたわたしが待っている。…… わたしが置いてきた感情をそっくり抱いたもう一人のわたしが待っている。」

この一文もすごく共感した。これを読むと、私も「ひどくいじめられて、泣きながら走った路地に」まだ幼い私が待っているような気がする。探し出して、それから?

この話はちょっと怖い結びになっている。

日常の世界から非日常へ、いつのまに読者を誘い込み迷わせる7つの物語が収められている。