トマト丸 北へ!

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「アイリス・アプフェル 94歳のニューヨーカー」 2015年アメリカ ドキュメンタリー

ニューヨークに行きたい。これは千葉敦子さんの影響だ。フリーのジャーナリストだった千葉敦子さんは、乳がんを抱えてニューヨークへ移住した。人生が残り少ないと悟り、静かに療養する生活を選ぶのではなく、人生の新たなページを開き残りの一滴まで味わおうと決意したのだ。彼女のアグレッシブな生き方が好きだ。温かい性格も慕わしい。彼女が晩年を暮らしたニューヨークは、私にとって憧れの地なんである。

U-NEXTでこのドキュメンタリーを見たのも、「94歳のニューヨーカー」という傍題に魅かれたせいだ。

IRIS  APFEL は、服飾収集家であり、美術館の展示、ショーウィンドウやさまざまな個人の住宅などの空間をプロデュースするコーディネーターとして活躍している女性だ。彼女の転機となった大きな仕事にメトロポリタン美術館の服飾部門の展示がある。

彼女の出で立ちは個性的でビビッドだ。太い枠の大きな眼鏡、原色のしゃれた組み合わせ、幾重にも重ねながらも一つのもののように調和しているアクセサリーがすてきだ。その生き方も人の心をパッと明るくする。

いちばん好きな彼女の言葉は、「あなたは他人のファッションを批判しませんね」と言われたときの「みな好きな物を着るべきよ。センスがなくても幸せならいいの」という言葉だ。この言葉は彼女の精神がそのファッションと同じに生き生きと自由で幸せなものであることを示していると思う。

60年以上連れ添っている(このドキュメンタリーの中で100歳の誕生日を祝われた)夫のカールは妻の魅力を「子どものような」と表現している。彼女自身「好奇心とユーモア」を大切にしているものとして挙げている。「毎日同じことの繰り返しなら、何もしない方がまし」。私が気づいたのは、アイリスが夫と同じ空間にいるときには他の人といるときと表情が違うということだ。まだ夫の映像が映る前から、それがわかる。愛が伝わってくる。この夫婦は本物だと思った。カールは二人の人生を振り返って、「美しい旅のような人生だった」と言っている。

アイリスは「自分を美人だと思ったことは一度もない」と言う。「美人じゃなくてよかったくらいだわ」。「私みたいな人間は、努力して魅力を身に着けるの。いろんなことを学び、個性を磨くのよ。味がある人間になれるし、年をとっても変わらない。美人でなくてけっこうよ」。この言葉は深いし、アイリスだからこそ説得力のあるものだ。

年をとって後ろ向きになってしまうことについて、「重病じゃないなら、自分を駆り立てなきゃ。外へ出て、体調の悪さを忘れるの」。すごく励まされる。「前向き」というのでは足りないのだと思う。

大きな眼鏡をかけたビビッドな彼女の映像を見るだけでも元気が出てくる。彼女のコーディネイトが人の心を引き付けるゆえんだ。

ますますニューヨークへ行きたくなった。半年でもいいから暮らしてみたい街である。