トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

『炉辺のこほろぎ』 ディケンズ作 本多顕彰訳

ジョン・ピアリビングルとメアリの夫婦の愛の物語。とても後味の良い話だ。

メアリのキャラクターがとても魅力的。明るく無邪気で疑うことを知らないかのようだ。彼女の賢さは他人を追い落としたり権力をふるうためのものではなくて、平凡な生活に命と愛を吹き込む類の賢さだ。ほんとうに人を幸せにする賢さは、そういうものだと思う。

そして運送屋のジョンも、小説中の人物ではあるが、「善き人が不幸になるはずがない」という私の池田晶子さんからパクった持論を実証する人物である。

夫婦の間に誤解が生じても彼の愛は変わらない。もしかしたらそれは短い間のことだったのかも知れないと思われる状況に至っても、その期間だけの愛と誠実さを信じる。一瞬でも疑って憎んだとしたら、その後どういう展開になろうと二人の愛は傷ついただろうと思う。彼が二人の愛を守ったのだ。

コオロギがチャープ、チャープと鳴くのが不思議。外国語って、その翻訳って、独特のおもしろさがある。

また、以前読んだときとまったく印象が違うことにも驚く。「少年少女世界文学全集」などで読んで、もう分かったと思い込んでいた私。今回日本と世界の文学を読み直すことにして良かったかもしれない。