トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

神田まつや天もり

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久々の神田。まつやに直行だ。

丸の内線淡路町A1出口を出て右手に歩道橋を見たとき、こっちだなと直感した。方向音痴のアタシが忘れていた道を間違いなくたどり着く、そんな店である。

三十人くらいの行列。最後尾について10分後くらいに熟年女性の2人連れが来た。2,3分で「今日は諦めよう」と声高く相談を始めた。「これは待てないわ。今日は諦めて駅前で何か食べましょう」「そうね。それがいいわ」。決心がつかないのか、この会話を何度も繰り返す。アタシの方をちらちら見る視線を感じたが、知らんふりをしていた。

アタシは待つつもりだった。待っても30分くらいだろうとふんでいた。しかし確信はないので相談に乗る訳にはいかない。聞かれたわけでもないし。うるさいので早く立ち去ってほしかったし。読みかけの『女たちのポリティクス』を読み終えるのにちょうどいい時間だと思われたから、3,4じゅっぷん待ってもどうということはないのだ。

待っている間に開け放しの戸の部分から中が見え、色白の福々しいおばさんの前にお銚子が並んでいるのが見えた。熱燗かな。ちょっと顔が赤らんで、楽しそう。いい感じ。これが蕎麦屋、これがまつやなんだな。

手を消毒して通された席。コロナのせいか仕切りがあるのがうれしい。ひとりだとついたてがあったほうが落ち着く。

ビールの小瓶と天もりを頼む。

ほどなくビールと蕎麦みそが置かれる。蕎麦みそが甘くておいしい。ビールもよく冷えていて美味。アタシはビールはサッポロだ。

天もりの海老が大きく、熱々でからりで、言うことなし。蕎麦はやっぱりまつやの蕎麦で、のど越しよろしく香りよろしく、ほんとにうまい。つゆのほんの少しの甘さ加減も良い。末期の時何も食べられなくなってたら蕎麦湯を飲ませてほしいと思うくらい好きな蕎麦湯も熱くておいしい。

そしてこの店の温かい接客はちっとも変っていなかった。「蕎麦湯、熱いのを持ってきますから、ちょっと待っててくださいね」とか、盛況で大忙しなのにフレンドリーでていねいだ。私の好きなもう一軒の蕎麦屋並木藪の接客はちょっとそっけない(そこもまた味があるのだが)もので、こちらはやさしいという違いはあるが、共通しているのは、一見であれ常連であれどの客にも隔てないホスピタリティだ。たぶんどちらも提供している蕎麦に対して誇りを持っているのだと思う。

休日に蕎麦屋に行くのではなく、蕎麦屋に行くことが休日になると杉浦日名子さんがどこかに書いておられた気がするけれど、そういういい蕎麦屋をいくつか知ってる幸せがある。(もしかしたら「蕎麦屋」でなく「浅草」だったかもしれない。アタシも、どっちも大好き)