トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

ガーンジー島の読書会の秘密  監督 マイク・ニューウェル

テーマは、本は人の魂を支え、つなぐ

エリザベスという稀有な魂を持つ女性の消息を調べるという謎解きの要素、ヒロインのジュリエット・アシュトンの精神的自立、読書会の人たちにとっての戦争の終わり、という三つの柱に沿って物語は展開する。

背景は大型船が入港できる港が無いためボートに乗って上陸するという荒々しいガーンジー島の景色だ。島の一隅に貼り付くように立ち並んでいる可愛らしい家々、荒涼とした自然など、おとぎ話のような島。

しかし、第二次世界大戦中にドイツ軍に占領され、引き裂かれた家族、裏切り、逮捕、残された私生児など、過酷な過去を持つ島だ。

その重い戦中戦後を書物の助けを得て乗り越える物語である。「読書会」の体験と繋がりが人々を支え、最後にはジュリエットの書いた本によって彼らの戦争が終わるのだ。

第二次世界大戦の最中、友人を訪ねてガーンジー島を訪れていたエリザベスは、友人の死に打ちひしがれるその母を慰めるために島に留まり、ドイツ軍の将校と恋に落ちる。彼女は自分に正直に生きることしかできない。弱い者、虐げられる者を見捨てておけないのだ。よその島から連れて来られて酷使されていた少年を助けようとして、ついに彼女はドイツ軍によって逮捕され、島から連れ出されて行方不明になってしまう。

彼女はドイツ軍将校との間に生まれた幼い娘を後に残していた。彼女に娘の世話を頼まれていたドーシーは、父として彼女を養育する。「なぜあなたがパパに?」とたずねるジュリエットに、「四歳の子供にはパパが必要だから」とドーシーは答える。(素敵!)

ジュリエットの調査で、エリザベスの悲劇的な最期が明らかになる。それは他人のために自らを投げ出すという彼女らしい最期だった。エリザベスはとらわれの身となっても魂の輝きを失うことは無かったのだ。

ジュリエットは読書会のことを書く。読書会のメンバーと約束をしたので出版はしないと決めていたが、彼らには読ませる。そしてジュリエットによって文章に表現されたことで初めて、彼らの戦争が終わったのである。

婚約指輪をはめないヒロインなど、伏線も人々の心の動きも、ていねいに描かれておりわかりやすい。

島を訪れて最初に参加した読書会で、ジュリエットはシャーロット・ブロンテの小説を朗読する。象徴的な場面だ。

「私は貧乏で美しくもないけれど、魂のない人間ではない」というジェーンの言葉は、男性社会への抗議だと、ジュリエットは説明する。この言葉は、この映画のテーマでもある。

ジュリエットは金持ちだが女を自分の付属物として扱うマークと別れて、羊飼いのドーシーと結ばれる。ドーシーとは大丈夫。二人は本=魂で結ばれているから。