久々に面白かった探偵小説。
孤独な若い女性コーデリア・グレイは、相棒であり探偵家業の雇い主であり唯一の友人でもあったバーニイの突然に死により、世間に放り出される。
これからどうしよう、と悩むにも、相談相手は生後まもまく死別した亡き母の幻だけ。(その幻も彼女自身が無理くりに作ったものでそれを自分でも自覚している。)
その心の中の母でさえ、「女には向かない」と反対した探偵家業を彼女は選択する。それは元警官で彼女に捜査のいろはを教え込んでくれたバーニイへの追憶のためだというところが泣かせる。
彼女は無責任な父がめんどうをみないため、何人もの養母の間を転々として育つ。そして優秀な彼女が面倒見のいいシスターの助けで大学へ進学できそうになったそのとき、身勝手な父親に呼び戻され、家事及び仕事の手伝いとして使われることになってしまったのだ。
そういう悲惨な過去を持つコーデリアだが、絵を見たり本を読んだり旅の荷造りをしたりという小さな経験に喜びを見出し、淡々と生きている。若さと孤独さ。可愛くて、胸がきゅんとする。
私の大好きなV.I.ウォーショースキーことヴィクとは毛色が違うが、美人だというところと独立心が強いという共通点がある。
彼女の最初の事件は、首つり自殺をしたマーク・カレンダーの自殺の原因を探るという仕事だった。
彼女を応援しつつ探偵家業を共に楽しむ。
彼女と共にケンブリッジを訪れ、マークが住んでそこで自殺したコテージに寝泊まりし、聞きまわるのは楽しかった。コーデリアの捜査手法はあちこち聞きまわるという方法で、スペンサーに似ている。彼女の捜査に苛立った犯人や周囲の人物が馬脚を露わしていくのだ。
この本を読んでいて分かったのは、私はあまり登場人物が多くて複雑な話は苦手だということだ。それと弱い者が長々といたぶられるのも辛い。この本はそういう意味でも読みやすく、後味のそう悪くない本だった。