新宿サンモールスタジオで行われた初日に行ってきた。
ヘレン・ケラーと言えば「奇跡の人」で、「ウォーター!」の場面が有名だが、その後のことはあまり知られていない。私も、反戦運動をしたことくらいしか知らなかった。
この劇は「その先に開かれた世界」を描いている。
三重苦を克服したという感動的な美談以上にすごい人だったのだ。(どこまでが史実でどこまでがフィクションなのかは分からないが)
障がい者は結婚も出産も禁じられていた時代、女性にも黒人にも市民権のなかった時代。差別を勇気と行動力をもって打ち砕き、自分の道をまい進したヘレンと彼女をサポートしたサリバン先生の物語だ。
「大学へ行く」「ダンスを踊る」「作家になる」「自分の家を持つ」「恋をして結婚する」・・・どれも当時の社会では障がい者には許されないことだったのだ。
圧倒的な迫力の舞台に感動した。そういう激しさと無茶苦茶な行動力でしか実現できないことばかりだったのだと思う。
ヘレン役の羽杏さんは脚本・演出のアサノ倭雅さん。ヘレン、可愛くて純粋で大きい。迸るような生きる力を感じる。
「自分の声で話す」ヘレンの拙い発音が、しゃべりたい、自分の言葉で伝えたいという強い思いを訴えてくる。始めは耳障りだった声が、いつの間にか真っ直ぐに心に響いてくるのだった。
アン・サリバン役の松本紀保さんも素敵だった。アン自身が障害と貧困を乗り越えてきた女性だったのだということが存在感として伝わって来る演技だった。
彼女でなければヘレンに新しい世界を開くことは出来なかったのだと納得させる。
ヘレンの母ケイト役の鯨エマさんも良かった。娘を信じ、娘への愛に生きたケイト。時代や社会通念、女性としての限界を越えることは出来なかったけれど、愛を貫いた強い女性だったのだと思う。
ケイトの温かさ・優しさが激しい舞台に深みを持たせていた。
観て良かった。勇気づけられる劇だった。
一番好きな場面は、森の中でヘレンが恋をするところだ。魂と魂が電気のように交流するとき、ヘレンの思いが明晰な言葉となって伝わる。
フィクションなのかも知れないけれど、こういうことがあって当たり前なのだと思う。この場面があって良かった。
初日らしいバタバタしたところも少しあったけれど、生きることへの熱意が伝わってきた。十分以上に満足した舞台だった。