トマト丸 北へ!

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震える岩 霊験お初捕物控            宮部みゆき  講談社文庫

 

新装版 震える岩 霊験お初捕物控 (講談社文庫)

新装版 震える岩 霊験お初捕物控 (講談社文庫)

 

 

霊験お初シリーズ、私は初めて読んだ。次の「天狗風」、読みたい。しかしわざと買ってない。読み終えるのが惜しいくらい面白いのである。読み始めたらノンストップで読み終えてしまうからだ。

まず、地名、物売りなどの街の風物、情景など、私の大好きな「江戸」が詰まっている。

謎解きの面白さは言うに及ばずだが、それだけではない。

登場人物が新鮮で魅力的。

お初はものが「見える」。その場に強く残った死者の思念を読み取ることができるのだ。

それはお初に与えられた「ギフト」だ。表ざたには出来ないことだし、薄気味悪さもある、危険を孕むこともある。良い面ばかりではない。そしてお初自身にもコントロールできない力であり、オールマイティに物事を解決できるわけでもない。

やってくる映像は新たな謎でしかなく、それを手掛かりに様々工夫し、体を張って謎解きに迫るのだ。

お初は自分に与えられたその能力を素直に受け止め、人助けに役立てていく。不思議な能力を持っていても、あくまでもまっとうに生きて行こうとするバランス感覚を持っているところが好きだ。

右京之介も、大変な悲劇の中で育っているのだが、それでも一個の人間として最善を尽くして生きようとしている。

過酷な環境や状況であろうとも、そこでどう生きるかは本人の裁量に託されている。自分らしく生き抜こうとするところが二人の魅力だ。

物語の謎の中心である赤穂浪士の事件とお犬様にかかわる事件の原因は二つながらにして権力の気まぐれによる理不尽な裁定だった。そこでも、運命の打撃にどう立ち向かうかという自分の選択によって大きく人生が異なってくる。

たとえ悲劇に終わろうとも、一方的に権力に蹂躙されるのではなく自ら選び取った道を全うしようとする生き方ができるのだ。

このように、うすっぺらなステレオタイプでなく深みと立体感をもって人間が描かれている。読み応えがある。

おどろおどろしい内容ではあるが、お初たちの明るい人情とまっとうさがこの物語を後味の良い作品に仕上げている。