トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

宮部みゆき『誰か somebody』の桃子が好き

 

 この杉村三郎シリーズを私は最新刊『昨日がなければ明日もない』から読み始めてしまった。宮部みゆきは刊行数が半端ないので、私にはその全貌が把握できないのだ。それで、書店で目についた本を買って帰るとこういうことになる。

だから私にとっては杉村は最初からバツイチだ。嫌いじゃない元妻と目の中に入れても痛くない小さな娘がいる、あまり流行らない探偵として彼と知り合ったわけだ。

離婚のいきさつはわからないが痛ましい感じで見ていた。で、第一作に戻って読み始めると、まだ離婚していない。はかないほど美しい妻と愛らしい桃子と幸せに暮らしているのだ。杉村に本を読んでもらう桃子、カラオケで歌う桃子。愛情いっぱいに育っているのにわがままじゃなく小利口でもない。子どもの可愛さを凝縮したような存在、それが桃子だ。離婚するらしい将来を思うと切なくてたまらない。彼の家庭が描かれるたびに心痛むのである。

そうやって心痛みつつ読んだ本文の感想は「梨子嫌い」というもの。

逆玉のようにして大企業の会長の娘と結婚した杉村は児童書の編集者を辞めてその今多コンツェルンの広報室に勤めることになった。それが結婚の条件だったのだ。会長の命により聡美と梨子ふたりの姉妹を助けてその父梶田の伝記を刊行する手伝いをすることになった杉村。しだいにあらわになるなる人間模様はけっして心地よいものではなかった。

一見平凡に見える人間の奥深さ、得体の知れなさが深く心に食い入ってくる。読ませる展開だ。どれだけ長くても、気に食わない登場人物がいても物語の吸引力に負けて読み進む私。でも梨子がもう少し感情移入できる性格だったら、もっと楽しく読めたのに。

両親に溺愛されて育った梨子は姉と競り合いわがままの限りを尽くす。大人になっても性格は変わらない。姉の聡美は聡美でやられほうだいでいることを矜持としているかのようだ。私はお人好しの杉村とは違うので、この手の美人姉妹に向ける視線は冷たいのである。