トマト丸 北へ!

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『女性が人生を変えるとき』(光文社未来ライブラリー)メリンダ・ゲイツを読んで

ビル・ゲイツの妻である彼女が「誰かをはじき出す」ことではなく、「人々を招き入れる」ことに力を注いできた軌跡は尊いと思った。

ビル・ゲイツという人はいろいろな意味でほんとにすごい人らしいが、私はよく知らない。メリンダについてもこの本で知った以上のことはほとんど知らない。以下はこの本を読んだ限りにおいての私の感想だ。

数年前に彼女は離婚してもうビル・ゲイツ夫人ではないのだが、この呼び方そのものが彼女にそぐわないものである。夫の光を反射する月ではない。別れの辛い側面はあっても、彼女の善良さがこれからの彼女の行く道の大きな助けになるのではないかと思う。

この本は彼女ほどの輝きを持たない普通の人々にも助けになることが書かれている。ひとりの人間としての彼女が描かれているからだ。

世界の貧困の本質について、このようなことが述べられている。「その「貧困」は経済的な貧困だけでなく、精神の貧困でもある。この二つは深い所で固く結びついている。」と。

経済的に豊かで精神的にも富んでいる人々、経済的には豊かだが精神は貧困な人々、精神は豊かだが経済的に貧困な人々、経済的にも精神的にも貧しい人々。四番目の人々には助けが必要だ。助けるためには彼らを深い所で理解するところから始めなければならない。

この本を読んで、こんなことを考えた。お金を与えるだけでは不十分だし、正しい答えを与えるだけでもだめだ。一歩を踏み出すときは、その人々が自分の意思で踏み出すのでなければ意味が無い。だからまず援助しようとする人々を知り、理解することが大切なのだ。

二番目に私が共感した文章はこれだ。

頁44 「男性支配の国が衰退する原因は、女性の能力を活用しないことだけではなく、(女性を)輪からはじき出そうとする男性が中心にいることです。」

 これって、日本のことだよねと思う。そして女性同士も助け合わないことがあり、「名誉男子」みたいな感じの女性はガラスの天井を突き破ろうとする他の女性の足を引っ張る。一方で巧に権力を持つ男に取り入ったりして。

一番心に響いたのは、メリンダ自身のマイクロソフト社での体験を書いた部分だ。

彼女がマイクロソフト社に入社を決めた経緯もおもしろいのだが、その後の展開も興味深い。

同社に入社して夢中で働いていたメリンダだったが、「会社全体に電気が流れているような生き生きとした社風」を気に入る一方、「居心地の悪さ」も感じていた。「何かが違う」。会社の「自分の強さを証明しなければならない空気」に合わせてはいたが、「本来の自分の姿でここで働き続けられるだろうか?」(p308)という思いもあった。

こういう場合、普通ならそのまま頑張り続けるかもしくは転職という道を選ぶのではないだろうか。

メリンダはこう考えた。

「女性社員は自分だけではないし、社風に合わせて別人格を演じている社員は他にもいるはずだ。」

彼女は「同じように社風に違和感を覚えている社員を男女問わず探し始めた」のである。そして彼女は同じような思いの仲間を見つけ、交流し、その仲間たちで「独自の文化を作り上げていった」。そのコミュニティは毎月第二水曜日に集まるようになり、「二十年近く経つ今でも続けています」とある。

世界を変える方法がここにあると思う。

逃げるのでも戦うのでもなく、その中で自分らしく働ける環境を自分で作っていく。すごいなと思った。

特に感心したのは、彼女が、女性だけでなく男性の中にも自分と同じような「居心地の悪さ」を感じている人がいることに気づいたところだ。彼女の抱えていた問題は彼女だけのものではなく、女性だけのものでもなかった。

最後にめっちゃしびれた言葉を引いておく。

「すべての壁は扉なのだ」

メリンダ・フレンチ・ゲイツ(本の扉にあった紹介)

世界最大規模の慈善団体であるビル&メリンダ・ゲイツ財団の共同議長。米国で女性やその家族の社会的全身を支援する投資・育成企業、ビヴォタル・ベンチャーズの設立者。テキサス州ダラスで育ち、デューク大学でコンピューター科学の学士号、デューク・フキュア・スクールでMBAを取得。マイクロソフト社でマルチメディアプロダクツの開発に携わった後、子育てと慈善活動に注力するために退職。