トマト丸 北へ!

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きたきた捕り物帳   宮部みゆき著  PHP研究所

 

きたきた捕物帖

きたきた捕物帖

 

 

きたきた捕り物帳   宮部みゆき   

 

これは面白い。

江戸の魅力がいっぱいに詰まっている。

河豚にあたって急死した文庫屋千吉親分。役者のような色男で酸いも甘いも噛分ける苦み走った46歳の突然の死は、盲目のおかみさんと一番下っ端の子分北一の生活を急変させた。北一は文庫売りの仕事を続けながら、なんとなく振りかかってきた事件をひとつひとつ解決していく。その過程で知り合ったのが長命湯の釜焚きの喜多次だ。

解説には北一と喜多次、ふたりの成長の物語とあるが、ゆくゆくそうなるにせよ、この本の中では北一が主人公。

ふたり同じようにやせっぽちで薄汚れているが、喜多次のほうは本来眉目秀麗、誰にも分らないようにしてはいるものの実は武道に長けているらしい。出自もなにやら由緒あるらしい謎を秘めている。

それに引き換え北一は限りなく捨て子に近い迷子だった三歳のときに千吉親分に引き取られたという身の上だ。腕力にはからきし自信がないし、はきはき物が言えるタイプでもない。貧相な薄毛の少年だ。

しかし北一は観察眼と千吉親分のようになりたいという望みを持つ、本当は見どころのある奴なのである。

最後の方で恩ある盲目のおかみさんが貶められたとき、暴言を吐いた相手に「おかみさんを貶めるなら、てめえはおいらの敵だ。今を限りに縁を切る」ときっぱり言うのだ。そのゆっくりとした穏やかな声音に、いつの間にか彼の身についていた凄みのようなものが感じられる。少年は、大人になろうとしているのだ。

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