トマト丸 北へ!

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『バカと無知』(橘玲著)新潮新書968 が売れる訳

P278 「人間というのはものすごくやっかいな存在だが、それでも希望がないわけではない。一人でも多くのひとが、本書で述べたような『人間の本性=バカと無知の壁』に気づき、自らの言動に多少の注意を払うようになれば、もうすこし生きやすい社会になるのではないだろうか。自戒の念をこめて記しておきたい。」

 

誰も率直に言おうとしない人間というものの本性を述べた本。その本性とは、「バカと無知」である。

この本の3つのポイント

① キャンセルカルチャーという快感がある。

  キャンセルカルチャーとは、自分より優れた者は「損失」、自分より劣った者は「報酬」とみなし、上位の者を引きずり下ろし下位の者は踏みつけにするというもの。人間にとってキャンセルカルチャーは抗しきれない誘惑である。

② 脳の基本仕様は、受けた被害を過大評価し、自分が為した加害行為は極端に過小評価するように出来ている。このことを認識しないと、自分は絶対的に正義であるとし、相手を絶対的な悪と見なして収拾のつかない事態になってしまう。

③ 集団生活では「抜け駆け」と「フリーライダー(ただ乗り)」が問題となる。

 

特に参考になったこと

 この本を読んで、今まで自分が人間関係で苦しんで来たことのメカニズムがさらっと解明された。「そうだったのか!」と目からウロコである。「はっきり言ってもらって良かった!」と読んだ人のほとんどが思うのではないか。

 世の中に理不尽な事柄があふれており、常に混乱が生じるのも、人間の本来の性質からすると当然のことなのだ。

 

この本を読んで自分が変わった点

 世の中の人たちとぶつかることが多く、いろいろ驚いたりたじろいだり自分を責めたりしてきた私。でも私に起きた問題はどれも「起こるべくして起こった当然の出来事」なのだと腑に落ちた。特に悪い人も居なかった。

 みんな、「自分が生き延びる」「自分の子孫を残す」という二つの本能に突き動かされて一生懸命生きているだけなのだ。人間もまた自然の一部である以上そのように生きるしかないのだと分かって気がラクになった。

 自分自身も別に特に憎まれる性格ではないのだろうと思った。みんな必死に生きてる、すべて自分にとってはその道が得なのだと思い込んで進んでいるのだと思う。切なくて哀れではあるけれど、悩むことでもなかったのだ、と。

 特に③の「抜け駆け」「フリーライダー」の下りは身につまされた。この二つを私は割とやってる。グループで買い物してもなぜか私だけ安くしてもらったり、景品をもらったりすることが多い。ブスで頭も悪いのに余裕のある(ように見える)生活ぶりである。みんなが我慢して従っている暗黙のルールを無意識に破って楽をしている(ように見える)。

 こういうことをしていて「みんな」から疎外されないわけがないのである。

 そうかそうかと納得した。

 だからと言って生き方を変えようとは思わない。ただ、私を気に入らない人が居ても当たり前だと分かった。「虐められキャラ」だと自認していたが、「自分の受けた被害を過大にとらえる」という脳の働きを思うと、そう気にすることもないのかも。「虐めた」人たちはたぶん、苛めたとも思っていない人が多いのだろう。忘れているかも知れない。

 これからも世渡り上手にはなれないだろうが、いろんなことを冷静に捉えることができそうだ。他人のことでいちいちへこたれる必要は全然ない。

 いろんなことが「わかる」というのは楽しいことだし実益もある。この本を読んで人間の性質についても知るのは楽しいし、実益もあった。

 ただ、世の中には、この本に書かれているのとは違う性質を持つ人間もいるし、違うところを目指している人間も多い。バカでも無知でもなく、人生を楽しんでいる人たちが、確かにいると感じている。そういう人たちは確実に増えてきているのではないだろうか。

 この著者に反論するだけの知識も論理も持たないが、なんか、そのように思えるのだ。